星降る夜とホットスナック　～かろやかに、サックリと～｜リアクション

星降る夜とホットスナック　～かろやかに、サックリと～

　八神修は七夜あおいと、九夜山を訪れていた。屋台の灯りに眼を細めつつ、寒さ対策も忘れていない。
「あおい、カイロあるぞ」
「あ、ありがとう、修くん」
「寒くないか？　屋台で温かい飲み物でも買ってこようか。マフラーもあるぞ。使うか？」
「ふふっ、修くんたら～……あたしのお母さんじゃないんだから」
「え？　あ、いや、ごめん」
　気遣うあまり過保護すぎたのか、あおいに笑われてしまい、照れくさくなった修は頭をかいた。
　それでも。
　あおいと過ごせる。
　あおいが笑う。
　――なんと幸せなことだろう、と修は思うのだ。
「そのマフラー、してくれてるのは嬉しいんだけど。ちょっと恥ずかしいなぁ……」
「どうして？　気持ちがこもった素敵なマフラーだよ」
「だって、あんまり上手じゃないし……今だったらもう少し可愛いマフラーも編めるかもしれないのに……」
　続きが聞こえずに、首を傾げた修は、ある可能性に思い至った。
　もしかして自分は、二本目のマフラー授与という栄誉にあずかれるのでは？　と。
「き、期待しちゃうよ……そんな事言うと。あ、でも二本に増えたらどっちを使うか迷ってしまうな」
　修の言葉にあおいは急に駆け出し、振り向いていたずらっぽく笑った。
「ふふーん、どうしようかなー」

◆

「今年の冬は色々楽しんだね！」
　稲積柚春は、冬の夜空を見上げながら、後ろを歩くウォルター・Bを振り返って言った。
「そうだねぇ……スケートもやったし、縁日も見て回ったし」
「うんうん！」
「あと、不思議な食べ物もあったっけ」
　柚春が目をやったのは『おばけバーガー　三途の川味　新発売！　※辛さ調節できます』との看板だ。
　一体どんな味なのか、首を傾げるしかない。
「……あれは面妖だったねぇ」
　頷くワットの姿に、共通の話題がある幸せを感じる柚春である。
「少しずつ暗くなるのが遅くなってきたよね。お星さま達も夜が短くなるのが寂しいのかな」
　柚春は手袋を外し、まとわりついてきた星とハイタッチ（？）した後、空を見上げた。
「も？　柚春は夜が長い方が良いのかなぁ？」
「だって、ワットと堂々と夜遊びできなくなっちゃうし」
　ポケットから落ちた手袋を拾ってくれたワットの困った顔に、柚春は頬を膨らませた。
「僕、今夜は悪い子になるって決めたんだ。たまには夜遊びもいいでしょ？　危ないことはしないから！」
　ワットが口を開こうとしたその時、柚春の背後から声が聞こえた。
「……うむうむ。そなた、オトナの階段を登ろうとしておるにゃ？　そこはかとなくキケンなかほり……実にいいにゃ」
　そこにいたのは、おかっぱの黒髪から猫耳を生やした少女だ。
「まぁ、今宵の祭はこのお三夜大明神が守っておるゆえ、心配するにゃ。存分に刺激的なあばんちゅーる？　を堪能すると良かろう、なのにゃ」
「ふふっ、それなら安心だねぇ」
　ドン、と胸を叩く少女にワットが吹き出したとき。
「挨拶回りで急にいなくなったと思ったら……お三夜さま！　こういう時は気を利かせねば！」
「然様！　お二方、申し訳ござらぬ。我らは退散するゆえ、どうかご容赦を」
　少女の背後から若侍が２人、走ってきて、柚春とワットに頭を下げた。
「え、え、何でにゃ？　人間の色恋を見守るのも、神として……」
　２人は、若侍が少女を連れてそそくさと立ち去るのを、ぽかーんとした顔で見送った。