MODERN LOVE／バレンタインデーくれー知ってるよ！｜リアクション

MODERN LOVE／バレンタインデーくれー知ってるよ！

　TOS（『Tales Of the Sky』の略。オリジナルのレーディングカード版）対戦をその場にいるメンバーと遊んだり、新しいブースターパックを購入してデッキを組み直したりしているうちに、ようやく真白の待ち人が姿を見せた。
「真白～」

　もちろん芋煮紅美だ。雪を落とした傘を傘立てに入れ、店内自販機まで来て紙カップのコーラを買って横のベンチに座った。
「外一面の雪景色じゃん！　寒いはずだよたまんねーよなぁ」
　浅く腰かけ両膝はどでかく開脚気味、いくらジーンズ履きでもそれはと言いたいが、言わずに真白は自分もホットコーヒーを買って隣に腰を下ろした。
「紅ちゃん待ってたよ～」
　にじりにじりと効果音をつけたくなる速度で紅美ににじり寄る。
「そうなん？　どしたん？」
　結果的に開脚を閉じつつ紅美はカップをかたむけた。
「ほら、二月のこの日と言えばっ」
「キンロー感謝の日？」
「ちっがーう！　せめて建国記念日とか言ってー。バレンタインデーだよバレンタインデー」
　ということで、と真白はカバンから包みを取り出すのだ。
「はい、友チョコあげるー。紅ちゃんにもほい！」
「おー悪いね気ぃつかってもらって。そういやそういうイベントの日だったなー」
　忘れてたよと言いかけて、
「なーんてな。バレンタインデーくれー知ってるよ！　ほれ」
　と、紅美は隠していた包みを両手で真白に押しつけた。ピンクのラッピング、リボンもかかっている。
「ハッピーバレンターインな」笑う紅美の歯の白さがまぶしい。「あとで千絵のやつにもやんねーとな」
「ありがとー」
「真白こそありがとー」
　交換するのはチョコレートだけじゃない、気持ちだって交換してるよねと真白は思う。
「うお、このチョコって商店街の老舗洋菓子店のやつじゃん。いーのかこんな高級品もらって」
「紅ちゃんとはつきあい長いから、ちょっとしたスペシャルだよ」
「あたしのなんか母親が買ってきたやつだぞ。なんつーかマジ申し訳ない」
「そんなことないよー。紅ちゃんのくれたチョコだってブランドものじゃない」
「んー、まあそれあたしも好きな銘柄なんで。買うんならあの店にしろって頼んだ」
「あの店のケーキっておいしいよねー」
「だよなー、今度食いに行くべ」
「えーほんと！？　いつにするー？」
　しばらくわちゃわちゃと話に花をさかせて、「ところで」と真白は座り直した。
「紅ちゃんは他に誰かにチョコあげたりするの？」
「まあ一応」
「私とー、千絵ちゃんとー」
「そうな」
「あとはー……あ」
　真白は紅美と共通の友人の名を出した。彼は『クラン＝G』のアルバイト店員でもあり、名前があがってもおかしくない。
　そうな、といった程度の軽い返答を真白は予想したがちがった。
「いや、用意してない」紅美の口調は急に重くなった。「正確にいえば、母親があいつの分も買ってたけどこっそり自分で食べた」
　紅美の首は、真白と反対方向にターンしたのである。
「……え、ちょ、どしたん？」真白の口調もスローダウンせざるを得ない。「なにかあったん？」
　ケンカでもしたのかと問うも、「いーや」紅美は言うばかりだ。
「友達づきあいはしてるよ。こないだも『クラン＝G』でボドゲしたし。あいつとチーム組んで」
　楽しかったなぁと言う紅美の口調に、酸っぱい嘘は嗅ぎ取れなかった。
「じゃあどうして」
　むーとうなって紅美は大きなため息をついたのである。
「『友チョコ』だとか『義理』だとか包みに書いたところで、ちょっとアレかなーって思ってさ」
「どゆこと？」
「コクられた。あいつに」
　マジでな、と紅美は二度目の、より深いため息をついた。