MODERN LOVE／バレンタインデーくれー知ってるよ！｜リアクション

MODERN LOVE／バレンタインデーくれー知ってるよ！

　背筋を伸ばして誉は言った。
「詠はさ、気づいてる思うけど……俺は、結構意気地なしなんだ。俺、詠のことを守りたいって思ってるけど、まだまだ無力なガキの自分が情けなくて……最近、ちょっと落ちてた」
　寛美に言葉はない。誉はつづける。
「だからピアノの練習に逃げて、詠に顔向けできなかったのかもしれない。けど……いざ、今日詠の顔を見たら、自分のことなんてどうでもよくなった」
　息を吸う。
　誉は言った。断崖から身を躍らせる気持ちで。
「やっぱり俺は、詠が好きだなって実感した」
　寛美の反応を待つことなく、誉は通学カバンに手を入れる。
　取り出す。
「これ、会えるかわからなかったけど、用意してたんだ。受け取ってほしい」
　リボンでラッピングした小箱だった。
「ハッピーバレンタイン。海外では、男性から女性に贈るほうが一般的だっていうだろ？　花にしようかとも思ったけど、やっぱりチョコレートだろって」
　よほど驚いたらしい。寛美は目を見張っている。
「こ、ここで開けたほうがいいのかな……」
　やっとそれだけ言った。
「どうぞ」
　リボンにかけた寛美の指が、小刻みに震えていることに誉は気付いた。
　薔薇の形のチョコレートだった。熱で溶いたチョコレートに水飴を混ぜ、プラチョコと呼ばれる状態にして加工したものだ。薄く延ばしてから型抜きし、並べて巻いてととのえている。やってみると簡単ではなかったが、何度かの失敗をへたのち納得できる完成品にいたった。本物とみまがうような大輪は、ホワイトチョコで作った白薔薇との二色だ。指先でととのえた花弁が流麗な曲線を描いている。
「詠。俺は、君が好きだ。
　詠の一番に、恋人に、なりたい」
　誓うように、はっきりと言った。
「いつもは、いや、いままでは……詠と距離ができるのが嫌で、曖昧にしていたところが多々あったけど……俺は、心を決めた」
　しっかりと寛美の目を見る。
「詠が、欲しい。君を愛してる。だから、頼む。どんな答えでもいいから……詠の気持ちを、答えを、くれないか？　俺は詠の心が知りたい」
　どんなに言葉を尽くしても、この好きの気持ちは伝えきれない。
　あとは待つだけだ。
　YESの言葉が聞きたかった。
　――俺は、詠を諦めきれないから。
　寛美が一気に赤面したのがわかった。怒鳴るように言う。
「ば、バカヤロっ！　そ、そいつは卑怯ってやつだぜ！」
「すまん。性急だってわかってるけど、同じ学校に通える期間が、もうじき終わってしまうから。このままの関係、友達のままじゃ嫌なんだ」
　寛美の表情がかげった。横を向く。それどころか視線も下だ。
「……できねー」
　嫌なのか。
「誤解すんなよっ！　できねーってのは、お前と同じテンションで『俺も市橋のこと好きだ』なんて返事するのは小っ恥ずかしすぎてできねーってことだよ、ばかっ」
　嫌だからじゃなかった。
　詠は――。
　照れてるだけなんだ！
「じゃあ……」
「俺もお前のこと好きに決まってるだろーが！　付き合ってくれ？　望むところだ！　あとから『やっぱなしで』とか言うなよなっ！」
　寛美は両手で顔を隠してしまった。
「は、恥ずかしすぎて顔から火が出らー！」
　それと、と寛美は自分のリュックを手にした。
「卑怯って言ったのは俺より先にチョコレート出したことだよ」
　そうして平らな包みを、テーブルにドンと置いたのだ。
　誉を意識したのだろう。白黒の鍵盤を模した包み紙だった。リボンもかかっている。
「このチョコ、ない知識を総動員して一生懸命探して買ったのによー。俺の前にならんでた女の人がめっちゃ買ったから、危うく売り切れるとこだったんだぞこれ。でも手作りの、しかもそんなきれいなのには勝てるわけねーじゃねーか」
　子どもみたいに唇をとがらせて箱を手にすると、寛美は正面に向き直り、箱を両手で捧げもつようにして誉に差し出した。
「ほら、ハッピーバレンタイン……じゃなくてイブか？　まあいいか。受け取ってくれ」
　まだ照れがあるのか、いささか上目づかいに寛美は言った。
「市橋、俺も同じ気持ちだ。最近お前のことばっか考えてた。なんで俺からもお願いする。……つ、付き合いってくれ……っ、すまん噛んだ。付き合ってくれ！」
　寛美は泣きそうな表情だった。事実、大きな瞳が潤んでいる。
　ぜーはーと音がするくらい大きな一呼吸をおいて彼女は言う。
「……そういうことなんで、今後ともよろしくだ」
「ありがとう。こちらこそ」
　両手で受け取ってはじめて、自分の手も震えていることを誉は知った。

　詠のすべてが愛おしいよ。
　笑顔も意地っ張りな言葉も、全部独り占めしたい――。
　気持ちを打ち明けてほっとしたのか、やっと寛美はあの、誉が大好きな笑顔になって言ったのである。
「……あと、浮気したら殺すからな」
「しないよ！」
　相手が寛美の場合、実際にできそう（しかも素手で）なだけに洒落にならないのであった。

　――『MODERN LOVE／バレンタインデーくれー知ってるよ！』　了

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あとがき

担当マスター：桂木京介
ファンレターはマスターページから！

　ご参加ありがとうございました。参加者の皆様あっての桂木京介です。
　今回も感謝の気持ちでいっぱいです。

　この話は何度か書いたかもしれませんがお許しを。
　私はシナリオを考えるとき、たいていはタイトルを先に決めます。
　今回最初に思いついた言葉は『MODERN LOVE』でした。直訳したら『現代の恋愛』です。同名の海外ドラマシリーズ（面白いです）もありますし、昔の名曲のタイトル（こちらは実は恋愛関係なかったりします）でもありますが、私がこのタイトルに籠めた意味は『人それぞれの恋愛模様』でした。
　ぴったりユニゾンを織りなすような恋愛はもちろん最高でしょう。でもちぐはぐな恋愛、ほつれては修復する恋愛、はじまりつつある恋愛もはじまってすらいない一方的な恋愛も、終わりつつある恋愛も価値の差はないと思うのです。
　今回はいずれの参加者様も、恋愛にからめたアクションを投稿くださいました。ですからリアクションを描くにあたって私は、どの『LOVE』にも価値の高低をつけないよう心がけたつもりです。

　タイトルの話をもうひとつ。
　もちろんもうひとつのタイトルは、過去作『バレンタインデーなんて知んねーし！』を踏襲したものです。
　あのときからリアル時間で七年半……もうそんなに経つんですね。
　あっというまでした。いま指折り数えてびっくりしています。

　作品内の日時については、はっきり日付を書いているところもありますが、流れはあちこち前後しておりますのでご了承ください。

　そしてまた、これは何度も書いていると自覚しておりますがそれでも言います。ご意見ご感想お待ち申し上げております！
　では次回シナリオで会いましょう。桂木京介でした！

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