緊張する――。
佐和崎 紗月は下唇をかむ。インタビュアーに伝わっていなければいいのだが。
うなじのうぶ毛がチリチリする感じ、0.3ならぬ0.2ミリの極細シャープペンシルに、震える手で芯をセットしている感じにも似ていた。
今日は隣に親友にして高校時代の同級生、いまやルームメイトでもあり公私ともにパートナーたる
初瀬川 理緒の姿がないからだろうか。
それだけじゃない。
理緒ちゃんと別々の仕事だって経験あるし。インタビューを受ける人……インタビュイーに単独でなるのだってはじめてじゃないし。
テーマがテーマだからっていうのはちょっと理由かもしれないけど――。
でもやっぱり最大の理由は、本物の
ユカ・オオツキさんを前にしているからだよね。
ややもすると膝が鳴りそうで、紗月は全身に力をこめた。
「そんな硬くならないでくださいね。リラックス、リラックス」
けれどユカにはお見通しらしい。彼女はディスクジョッキーにして大学講師、三十年以上前から元はファッションモデルとしてパリやミラノで名を馳せ、現在も雑誌や広告に顔を見せる。ユカはジャズシンガーとして四枚のアルバムを出したこともある。二年ほど前に出版したエッセイ集がベストセラーになったのも記憶に新しい。才色兼備という言葉は彼女のためにあるのだろう。紗月にとっては目標であり憧れだ。
以前ユカの番組で電話インタビューを受けたことはある。でも初顔合わせとなる実物には圧倒されっぱなしだ。実際に美に『圧』があるのかはわからないが、ユカのまとっているものはそう呼ぶほかないと思った。紗月や理緒の母親であってもおかしくない年齢なのに、むしろ重ねてきた年月こそが、ユカの美を高めているのはないかと感じたほどだ。リラックスしてと言われてもできない相談というものだ。
「じゃあ紗月さん、名前で呼んでいいかしら?」もちろんです! と紗月の返事を聞いてユカはうなずいた。「インタビュー、はじめさせてもらいます」
すでにレコーダーは回っている。この日紗月は多少無理を言って、フォトグラファーにはなじみの
片庭 椎子(かたば・しいこ)に来てもらった。
いくら憧れの人が目の前であっても自分はプロ、覚悟を決めて紗月は笑顔になる。
「ユカ・オオツキです。寝子島からお送りしています。本日はとても素敵でかわいい佐和崎紗月さんにお話をうかがいます」
メディアで聴く通りのハスキーな声でユカは言った。
「今日のインタビューのテーマは『恋愛』。それでは紗月さん、準備はいいですか?」
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今朝の寒さは記録的だったが、日が高くなってもその勢いに落ちつく様子はまるでがなかった。
まだ日中でこれなのだから、夜ともなれば池に氷も張るのではないか。
寝子島高校。
詠 寛美は正門の門柱、赤茶けた壁に背を預けている。制服の上は黒いダウンジャケット、首には使い古した感のあるマフラー。あごから下をマフラーとダウンに埋めるようにしてい足元を見つめている。半分眠っているような目をしていたが、通りかかる者があるたび首をむけて確認していた。
通りがかった少年を見て、寛美のポニーテールが揺れた。
「よう」
ボールでもパスするように告げる。
「詠か」
市橋 誉は足を止めた。「どうした?」
高三だから冬以来ずっと自由登校だ。本日誉はたまたま登校したものの、寛美と会うとは思ってもみなかった。
「待ってた。ひさびさに一緒に帰らねーか、って思ってな」
「待ってた、って、今日俺が学校に来てるの知ってたのか?」
「いや。だから昨日もその前も待ったぜ」はははと笑う寛美の声が心なしか沈んでいる。「今日、お前に会えなかったらもうやめようって思ってた」
「すまん、俺……」
「市橋が謝る必要なんざねーよ。俺が勝手にやってただけだし」
悪ぃ悪ぃと寛美は頭をかく。
「べつに市橋の寮に押しかけたってよかったんだけどさあ。あそこ、なんか敷居が高いってーか、俺みたいなのが入ろうとしたら警備員に追っ払われそうでさあ。塩とか撒かれそうじゃねえ? パッパッと」
と、寛美は彼女にしてはめずらしく長々と話して肩をすくめた。
「なんつーかさ、最近あんま話してなかっただろ……。俺たち」
「だったかもしれないな」
校門から離れてしばらくは無言だったが、
「そういえば明日――」
ふと出かけた言葉に、はっとなって誉は口を閉ざした。
寛美が季節ごとのイベントや行事をあまり重視していないのは知っていた。特に明日、つまりバレンタインデーは『商業イベントにかぶれてんじゃねーよ』と嫌っていた記憶がある。
ところが怒るどころか、ぽつりと、
「……バレンタインデーくれー知ってるよ」
寛美は言い、あるかないか程度の微笑を浮かべたのである。
このとき誉は、寛美が巻いているマフラーが、かつて自分があげたものだと気がついた。
マスターの桂木京介です。
佐和崎 紗月さん、市橋 誉さん、ガイドへのご登場ありがとうございました!
ご参加の際は、このガイドにこだわらず自由にアクションをおかけください。
初瀬川 理緒さんは直接描いていませんが、ここから登場しても直後ないしその後、その前の場面で登場していただいても喜んで書かせていただきます。
本筋のバレンタインシナリオはありますが、本シナリオはこれに付随する、あるいはその前後のお話にしたいと思います。いわばバレンタイン外伝、ぼやぼやしてると本編を食いにかかるような(どんなや)外伝です。
状況
日常シナリオのつもりでいます。恋愛については深く関係があってもまったく関係がなくても大丈夫です。二月中旬であれば内容には限定を設けません。ただ、メインのバレンタインシナリオにも参加されている方は、当日以外でお願いします。
NPCについて
制限はありません。ただし相手あってのことなので、必ずご希望通りの展開になるとはかぎりません。ご了承下さい。
特定のマスターさんが担当しているNPCであっても、アクションに記していただければ登場できるよう最大限の努力をします。
NPCとアクションを絡めたい場合、そのNPCとはどういう関係なのか(初対面、親しい友達、ライバル、ネットアイドルとプロデューサーという名目だが本当は恋人同士など)を書いておいていただけると助かります。
参考シナリオがある場合はタイトルとページ数もお願いします(2シナリオ以内でお願いします)。
私は記憶力に問題があるので、自分が書いたシナリオでもタイトルとページ数を指定いただけないと内容を思い出せないのでご注意ください。
それではまた、リアクションでお目にかかりましょう!
桂木京介でした。