- 0
- 0
- 種族
-
- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
MODERN LOVE／バレンタインデーくれー知ってるよ！
日めくりカレンダーを前にしているわけではない。
ないのだけれど。
日一日、カレンダーの残日数が減っていることを、辞書のように分厚かったものがノートみたいに薄くなっていることを認識している。
鴻上 彰尋は認識している。
入学間もないころは、それこそ永遠にちかい時間があると思っていたものだ。高校三年間、雑な計算で一千日少々、単なる子どもではないが大人でもない、どっちつかずの長い長いモラトリアム期間に涯（はて）はないと。
だからその結末までの日数が、たやすく数えられるくらいの日数になったことにあらためて驚くのである。
結末の内容もほぼ定まっている。進路は決まった。あとは卒業を待つだけだ。
高校生活、人生百年とすればその三十分の一にすら満たないわずかな期間がもうじき終わる。
でもさっさと幕を引いて次のステージのことだけ考えるのはちがうと思うのだ。いやむしろ、終わりをたしかめるべきだと思う。でも時間が足りない。絶望的なほど足りない。
俺はまだ、高校生活を笑って見送れる心境に達してはいないんだ。
きっとそれは、彼女だって同じだと思う。
彼女というのはつまり、彰尋の想い人七夜 あおいのことだ。
華奢な見た目なのに活発、周囲に明るさをふりまき親切で辛抱強い。けれど社会的な不正や悪い慣習など、多くの人が見て見ぬ振りでごまかそうとすることであろうと、おかしいと思うことにはためらうことなく勇気をもって声をあげる。あおいのことを優しいと、多くの人は言うかもしれない。けれど彼女の優しさは、単に目に見える範囲のそれではなく、人間すべてに対する優しさだと彰尋は知っている。外見が魅力的かもしれないが、あおいの真の美しさは、内面にある靱（つよ）さこそにあると思う。あおいを何かのトロフィーみたいに、獲得して見せびらかしたいという気持ちはまったくない。あたうならば彼女に助けられ助け、支え合いながら人生を歩んでいきたい。そう決めていた。
まだ高校生なのにと嗤う人がいるのなら言おう。だったらあなたはいつ決めるのかと。そこに早い遅いがあるのかと。
あおいは来春、九州にある福祉関係の専門学校に旅立つ。介護の仕事につきたいと、二年以上考えて出した結論だという。しっかりと学んで、できるだけ早く現場に出たいのだそうだ。
もともと寝子島は彼女の出身地ではない。親きょうだいはすべて北関東だ。言い方は悪いかもしれないが、高校を卒業と同時にあおいには、寝子島との接点も戻る理由もなくなる。木天蓼大学に進み寝子島に暮らす予定の彰尋とは、卒業を境にこれきりとなる可能性は否定しきれない。
昨年末ごろからあおいが、単身で寝子島のあちこちを訪れ、記憶にとどめようとしていることを彰尋は知っていた。観光名所や名跡はもちろんのこと、島民ですらあまり足を踏み入れない北部の森や、特に見所もない南部の海岸地帯も散策していたようだ。とりわけ寝子島高校については、三年間一度も入ることのなかったような場所まで足跡をつけている。それも、一度ならず。
すべてはあおいなりの別れのセレモニーかもしれない。もう寝子島には戻らないという決意の表明かもしれない。
もちろん思い込みの可能性はあった。だけど彰尋としてはたしかめずにはいられなかった。だから、
『もし暇だったら』
と予防線をはりつつ、その日の朝、彰尋はあおいにメッセージを送ったのだ。
『思い出を作らないか』
追加で『俺の部屋で』――と送って、読み返してから彰尋はしまったと思った。
意味深なメッセージのようにも読める。
どこかに行こうという誘いではなかった。
もうあおいさんは島中、いろんな場所に行ってしまって、俺が誘ってもすでに行ってしまった場所じゃないかって思っただけなんだけど。
俺は、場所をめぐる以外の思い出を作りたい。
そして、素敵な思い出になりながらも「またやりたい」と思うような思い出にしたい。
それ以上の意図は籠めていないつもりだが、読めば読むほどまずい誘い方だったたような気がした。
どうしたものだろう。追加で『いや実は、一緒に料理をやりたくて』と送ったほうがいいだろうか。『鴻上彰尋のお料理教室、とか』。自分で言うのは恥ずかしいが、変な深読みは避けられそうだ。
そうしようと思ってスマホを手にしたとき、ブルッと振動が手に伝わった。
『いいよ！ 何するの？』
あおいのメッセージが返ってきたのだ。
ないのだけれど。
日一日、カレンダーの残日数が減っていることを、辞書のように分厚かったものがノートみたいに薄くなっていることを認識している。
鴻上 彰尋は認識している。
入学間もないころは、それこそ永遠にちかい時間があると思っていたものだ。高校三年間、雑な計算で一千日少々、単なる子どもではないが大人でもない、どっちつかずの長い長いモラトリアム期間に涯（はて）はないと。
だからその結末までの日数が、たやすく数えられるくらいの日数になったことにあらためて驚くのである。
結末の内容もほぼ定まっている。進路は決まった。あとは卒業を待つだけだ。
高校生活、人生百年とすればその三十分の一にすら満たないわずかな期間がもうじき終わる。
でもさっさと幕を引いて次のステージのことだけ考えるのはちがうと思うのだ。いやむしろ、終わりをたしかめるべきだと思う。でも時間が足りない。絶望的なほど足りない。
俺はまだ、高校生活を笑って見送れる心境に達してはいないんだ。
きっとそれは、彼女だって同じだと思う。
彼女というのはつまり、彰尋の想い人七夜 あおいのことだ。
華奢な見た目なのに活発、周囲に明るさをふりまき親切で辛抱強い。けれど社会的な不正や悪い慣習など、多くの人が見て見ぬ振りでごまかそうとすることであろうと、おかしいと思うことにはためらうことなく勇気をもって声をあげる。あおいのことを優しいと、多くの人は言うかもしれない。けれど彼女の優しさは、単に目に見える範囲のそれではなく、人間すべてに対する優しさだと彰尋は知っている。外見が魅力的かもしれないが、あおいの真の美しさは、内面にある靱（つよ）さこそにあると思う。あおいを何かのトロフィーみたいに、獲得して見せびらかしたいという気持ちはまったくない。あたうならば彼女に助けられ助け、支え合いながら人生を歩んでいきたい。そう決めていた。
まだ高校生なのにと嗤う人がいるのなら言おう。だったらあなたはいつ決めるのかと。そこに早い遅いがあるのかと。
あおいは来春、九州にある福祉関係の専門学校に旅立つ。介護の仕事につきたいと、二年以上考えて出した結論だという。しっかりと学んで、できるだけ早く現場に出たいのだそうだ。
もともと寝子島は彼女の出身地ではない。親きょうだいはすべて北関東だ。言い方は悪いかもしれないが、高校を卒業と同時にあおいには、寝子島との接点も戻る理由もなくなる。木天蓼大学に進み寝子島に暮らす予定の彰尋とは、卒業を境にこれきりとなる可能性は否定しきれない。
昨年末ごろからあおいが、単身で寝子島のあちこちを訪れ、記憶にとどめようとしていることを彰尋は知っていた。観光名所や名跡はもちろんのこと、島民ですらあまり足を踏み入れない北部の森や、特に見所もない南部の海岸地帯も散策していたようだ。とりわけ寝子島高校については、三年間一度も入ることのなかったような場所まで足跡をつけている。それも、一度ならず。
すべてはあおいなりの別れのセレモニーかもしれない。もう寝子島には戻らないという決意の表明かもしれない。
もちろん思い込みの可能性はあった。だけど彰尋としてはたしかめずにはいられなかった。だから、
『もし暇だったら』
と予防線をはりつつ、その日の朝、彰尋はあおいにメッセージを送ったのだ。
『思い出を作らないか』
追加で『俺の部屋で』――と送って、読み返してから彰尋はしまったと思った。
意味深なメッセージのようにも読める。
どこかに行こうという誘いではなかった。
もうあおいさんは島中、いろんな場所に行ってしまって、俺が誘ってもすでに行ってしまった場所じゃないかって思っただけなんだけど。
俺は、場所をめぐる以外の思い出を作りたい。
そして、素敵な思い出になりながらも「またやりたい」と思うような思い出にしたい。
それ以上の意図は籠めていないつもりだが、読めば読むほどまずい誘い方だったたような気がした。
どうしたものだろう。追加で『いや実は、一緒に料理をやりたくて』と送ったほうがいいだろうか。『鴻上彰尋のお料理教室、とか』。自分で言うのは恥ずかしいが、変な深読みは避けられそうだ。
そうしようと思ってスマホを手にしたとき、ブルッと振動が手に伝わった。
『いいよ！ 何するの？』
あおいのメッセージが返ってきたのだ。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
-
- 2024年02月20日
- 参加申し込みの期限
-
- 2024年02月27日 11時00分
- アクション投稿の期限
-
- 2024年02月27日 11時00分
