MODERN LOVE／バレンタインデーくれー知ってるよ！｜リアクション

MODERN LOVE／バレンタインデーくれー知ってるよ！

　撮影を終えた理緒は、ぐったりした足取りで自宅へ戻った。
　紗月はまだのようだったので、暖房を最大値に入れて風呂にも入り直す。丁寧に洗ったつもりだがしょせんは臨時のドラム風呂、体はなんとも磯臭かった。
　人心地ついたところで紗月が帰ってきたのである。
「ただいま。ところで部屋暑くない？」
　これが第一声だった。
　紗月のお土産かつバレンタインデーのチョコを、ぽりぽりと食べながら理緒は紅茶を飲んだ。
　インタビューについて紗月から根掘り葉掘り聞いた。ユカ・オオツキの言葉とか仕草とか、影のように存在感を消しつつ、しっかり撮影にいそしんだ椎子の奮闘とか。ほとんど汚れ仕事みたいな自分のワークとは天地の差だが、紗月なりの決断、胸の内を明かす場面は多々あったようだ。
「掲載が楽しみだね」
「うん。でも、ちょっと恥ずかしいかも……」
　紗月は頬を染めていた。
「恋愛ネタのインタビューなんだから恥ずかしいくらいでいいんだよ。あたしなんかさー、恥ずかしいなんてもんじゃなかったんだから」

　この一言で終わらそうかと思っていたが、以外にも紗月は「どんな撮影だったの」と食いついてきた。
「聞きたいの？」
「聞きたいよもちろん」
「あー……寒いだけの話だよ」
「どんな風に寒かったわけ？」
　紗月との間に秘密は作るまい、腹をくくって理緒は、聞いているだけで凍えそうな寒中ビーチ動画撮影の顛末を明かしたのである。
「なんか私も寒くなってきた」
　紗月はぶるっと身を震わせた。とっくに有名グラドルの理緒なのに、それでも仕事を選ばない姿勢には感銘を受けた。
　私だったら……無理かな。
　この時期に水着で屋外撮影というだけで二の足を踏んでしまいそうだ。しかも海！　ウォーターガン！　異次元の話に聞こえる。
　しかし紗月は気づいていない。彼女を寒がらせるのも理緒の狙いだったのだ。
「理緒ちゃん？」
　黙って立ち上がった理緒は背中から紗月を抱きしめた。椅子の背ごしに胸に腕を回して甘えた声を出す。
「ひどい目にあったよ。だから紗月……あたし、家に帰ってもまだ心が寒いんだ」
「うんうん、わかるよ私も寒くなってきた」
「暖めて、紗月」
「私も理緒ちゃんに暖めてほしいな」
「じゃあ……一緒に！」
　言うなり理緒は、一気に紗月のセーターを脱がせたのである。
「一緒って、ああ、もう、そういうこと」
　まったくと苦笑しつつも、紗月に拒むつもりはなかった。

　それから朝まで、もう床まで濡れそうなくらい長く濃密に愛し合ったのだ。バレンタインデーは恋人同士の日、寒中ウォーターシューティング大会の日のままで終わっていいはずがないだろう。
　日付に感化されたこともなかろうが、いつもはずっと受け身で比較的淡泊なところのある紗月が、はっきり聞こえるほどの声をあげ、しばしば上になって理緒を求めてきたことも、理緒にとっては嬉しいサプライズだった。
　知識として知ってはいたものの試したことのない行為、悦ばせあいかたもたくさんチャレンジした。笑っちゃうくらい失敗するものもあるにはあったが、癖になりそうな新発見もあった。何度も何度もくり返したものだから、いまとなってはあちこちがヒリヒリ擦過傷みたいに痛むくらいだったが、そのひとつひとつが甘い痛みであり、思い出しては赤面し、かえって疼（うず）くくらいだった。
　こうしてバレンタインデー翌日の夕方に、理緒は紗月の寝顔を眺めているわけだ。
「ふふ……」
　含み笑いが唇に浮かんだ。
　紗月のこと、どうやって起そうかな？