【月影塔】感覚遮断のサクリファイス｜リアクション

【月影塔】感覚遮断のサクリファイス

　桜井ラッセルと白真白、響タルト、そして御剣刀の４人の目的はほぼ同じであった。
　それは『ラピスと階層主のイヴァンとの因縁と確執を取り払い、二人を再会させる』事だった。

「いきなり星幽塔が落ちてくるって話が出てきてさ、そんな突然の告白に胸の鼓動が収まらないぜ……やべえよ。これが恋か？」
「真顔でなに言ってるんだよ、御剣！？」
　御剣のボケにテンポよく桜井のツッコミが決まった。
「寝子島が吹っ飛ぶか否かが掛かってるのに、よくもそんな呑気な事が言えるよな！？」
「桜井、そう怒るなって。こういう時こそユーモアを心に持つんだ。でも流石にさっきのはブラックジョーク過ぎた。正直すまなかったと思っている」
「絶対その口ぶり、反省してないよな！？　おいなんで今、顔を背けた！？」
「そんな事はないぞ？　その証拠に、さっきから罪悪感と危機感で俺の動悸が止まらないんだ。ど～きどき☆どきどき！　どきどき☆どきどき――！」

　＼＼俺の地元がッ！　ばきん！　どかん！と砕け散り～星幽塔が落ちて～く～る～よ～！／／

「じゃ、ねーんだっつーの！　御剣のボケのせいで思わずノリツッコミしちまったじゃねーか！」
　ひとりで歌って踊ってしまい羞恥心で頭を抱える桜井を、御剣は冷静な眼差しで見詰めていた。
「桜井、すっげぇノリノリじゃん……アドリブの歌詞で急に歌い出すじゃん……引くわ……」
「お前から始めたことだろうが！　つか、そこでなんで御剣が歌わねぇんだよ！？」
「ちょっと男子～！　真面目にやってよ～！」
　白がむくれながらラピスに付き添っている。
　タルトも苦笑いを浮かべて、男子二人を見守っていた。
「あれだね？　会話だけ聞いてると平穏そのものだけど……」
　彼女は自らの現在の格好を再確認して、溜息を吐いた。
「僕たち、今、すっごい恰好だよね？」

　タルトの言う通り、ラピスを含めておのおのが『全身タイツ』『サングラス』『耳栓』『鼻栓』『マスク』を任意に着用している。
　日の差す場所で同じ格好をすれば、寝子島でなければ不審者扱いされるだろう。
　なお、現在は真っ暗闇の第三階層の中だが、サングラスをしている者以外は別の感覚器官として姿を認識している。
　桜井は鼻栓、耳栓装着。白はマスクと鼻栓を突っ込んでいる。タルトは鼻栓、全身タイツ、マスクを徐々に装着する事で、残る感覚が超常的に研ぎ澄まされてゆくのを実感する。
　どうやらこれが『うお座の魔星の力』なのだろう。
　そして御剣は『耳栓』『鼻栓』『マスク』『全身タイツ』と、視界以外を遮断していた。
「やっぱ、これ端から見たら変態じゃね？　仕方ないんだけどさ！　できるだけ詳細の情報が欲しいからな、視覚が使えないとどうしようもなくなるし、俺なんてアイマスク以外全部盛りだよ！」
　マスクをしているので御剣は発声はしていないが、意思疎通が出来ているのは残された感覚が超人的に強化されているからだ。
　なお、御剣はスケッチブックでの筆談も用意していて手抜かりがない。恋人とのやり取りで身に付けた習慣である。
「ラピスちゃんも感覚遮断しないと第三階層に行けないの？」
　タルトはラピス自身も発明品で身を固めている事に首を貸してた。
　ラピスは肩を竦めてこれに応える。
「本来、星の力が十分であれば、妾は装備しなくともよいのだがな。まったく……イヴァンの奴め、いつまで寝ておるのだ？」
「とりあえずラピスちゃん、行こうよ！」
　白がラピスに声をかけると、タルトが階層主が眠る城へ手を引いてゆく。
　そうすることでラピスの不安を緩和させる。
「大丈夫。僕達が付いてるよ♪」
　発声しながら筆談にも対応する。
　こうして、第三階層の解放は、ラピスの心の持ちようにかかってきたのだった。

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