【マラソン大会】お花がいっぱい♪ フラワーマラソン！｜リアクション

【マラソン大会】お花がいっぱい♪ フラワーマラソン！

　御巫時子と五十嵐尚輝は横並びで走る。沿道には各種の花々が咲き誇り、甘い香りに包まれた。
　時子は思わず、深く息を吸い込んだ。空では野鳥が舞い、鳴き声を上げた。
　無意識に近い状態で、ろっこん『鳥の囀り』を発動して耳を傾ける。
　――私達を応援してくれています。ガリガリの男の人が心配ですか？　大丈夫ですよ。私がしっかりカバーしますので。
　微笑みを空に向けて時子は小さく手を振った。野鳥は上空を回って九夜山の方へ飛んでいった。
　目を尚輝に向ける。特に問題はなさそうで飄々と走っていた。
「あっ」
「どうかしましたか？」
「なんでもないです。ヘンな声を出して、ごめんなさい」
　心の動揺を笑顔で取り繕う。尚輝は横顔を見せて走ることに集中したようで、時子は安堵の息を吐いた。
　――マラソンの意外な効果にびっくりしました。前髪で隠れていた尚輝先生の目が見えるなんて、そんなサプライズは想定していませんでした。
　時子は胸の高鳴りを覚え、頻繁に横目をやった。期待したような結果は起こらず、前髪は鉄壁の防御を見せた。
　二人は揃って道なりに曲がる。遠くの方に給水場が見えた。
　透かさず時子が尚輝に声を掛ける。
「喉は乾いていませんか？」
「今はあまり渇きを感じていません」
「先を急ぐ必要はありません。給水場は水分補給だけではなくて、身体を休めるのにも利用できます」
　時子は痩身の尚輝を気遣って、やや言葉を強めた。
「そうですね。少しでも水分を補給して、体力の回復に努めます」
　その言葉に時子は本心の笑みで、そうしましょう、と弾む声を出した。
　二人は給水所に立ち寄った。その合間に身体を休め、再び走り始めた。
　海風に吹かれながら最後の直路に差し掛かる。
　時子は尚輝の変化に気付いた。左右の足の動き方が微妙に異なる。
「尚輝先生、どこか傷めたのですか？」
「たぶんですが靴擦れだと思います。痛みはそれ程ではないのでこのまま走り切ります」
「少し速度を落としていきましょう」
　心配そうな顔で尚輝に言った。
　のんびりとした走りに切り替えたことで大事には至らず、二人は揃ってゴールを果たした。
「足はどうですか」
「思った通りでした。少し皮が剥けています。出血はなくて大丈夫そうです」
「よかったです。あの、尚輝先生、この私の花を受け取っていただけますか」
　笑顔で棒状のルピナスを差し出した。花言葉は『いつも幸せ』だが、時子が自ら語ることはなかった。
「ありがとうございます。僕のナズナは御巫さんに」
「え、いいのですか？」
「もちろんです」
「とても緊張します」
　言葉通り、震える指先でナズナを受け取った。花言葉は『あなたに私の全てを捧げます』とあって時子は溶けそうな顔で満面の笑みを浮かべた。
「貰っちゃいました」
「あ、はい。どうぞ」
　尚輝は花言葉を知らないのか。それとなく首を傾げた。

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