ようこそ！　ホビーショップ『クラン＝G』へ！！｜リアクション

ようこそ！　ホビーショップ『クラン＝G』へ！！

　どうしても言うことを聞かぬ寝癖を帽子で押さえつけ、英二はドアを開けた。
「お待たせっ」
　

　怒るかもと危惧したが野々ののこは歯を見せて、
「ういー」
　と笑っただけだった。ごめんなさいと平謝りの英二を見ても、
「そんなに大急ぎで準備しなくたっていいのに。私なんかしょっちゅう遅刻するんだからさあ」
　ドンマイドンマイと軽く流してくれるのである。
　そろって桜花寮を出て歩いた。
　今日のののこは何度か見たベレー帽で、ステンカラーコートに緑のマフラーという服装だ。
　どう控えめに表現しても、超がつくほどかわいいな……。
　まさか正面切ってそう言うわけにもいかず、英二は「冬らしくていいね」と褒めるにとどめた。
　でも胸が高鳴って仕方がない。ののこと歩くのはせいぜい一週間ぶりでしかないというのにだ。
「英二くんは何がお目当てー？」
「ああ、僕は」
　言いかけて一瞬、英二は口をつぐんだ。
　ののこの姿に、オレンジの髪をしたガーナックT（タウ）の姿を重ねてしまったから。
　さきほどから何度か登場した『ガーナック』という言葉は、ゲーム『TOS』オリジナルの固有名詞だ。少女型殺人アンドロイドの総称で、ゲーム的には敵キャラにあたる。といっても展開によっては仲間になるガーナックもいるのがポイントである。
「どうしたの？　私の顔、なんかついてる」
「そんなことないない、起き抜けのせいかぼんやりしちゃって」ごまかし笑いを繰り出して英二は言う。「やっぱ『TOS』だね。マイブームになってるなぁ。価格と相談だけどフィギュアを買おうと思うよ」
「おお、この前いっぱいゲームしたから？」
「うん、そのせいかも」
　実はそれだけじゃないんだけどね。
　先日夢に見たから、とはさすがに言い出しにくかった。
　受験目前ゆえ原則ゲームは封印している英二である。だが禁じたせいかゲームのつづきが気になりすぎて、とうとう『Tales Of the Sky』の夢を見てしまったのだ。人気キャラのガーナックΥ（別名は悠月由真）、Ο（こと大黒ミオ）、Τ（ことターヤ・トイヴァネン）の三者と自分が共演するというちょっと豪華すぎるほどのファンフィクションな夢で、しかも夢のなかではターヤの正体はののこだったのだ。もともと同じ丸顔で、演じる声優の声質も似ていたというせいもあるが、いささか都合がよすぎる夢だよなぁと目覚めて思ったものだった。
　以来、ゲームをプレイしていないにもかかわらず英二の『TOS』熱は高まる一方で、そればかりか、それまであまり興味のなかった（というかミオや由真のほうが好みだった）ターヤのことも、なんだか気になるようになってしまったのである。
「なので今日は『TOF』……あ、『TOS』だっけ？　『TOS』のフィギュアを探したいな」
「ゴアラやニャンダムじゃないんだ」
「そのあたりもチェックするよ。するけどね」
　ちらちらとののこを眺めつつ、やっぱり野々さんってターヤに似てると英二は思う。
「ターヤちゃん大登場、なのです！」
　ってターヤのモノマネ、野々さんが急にやったりしたら僕失神しちゃうかもしれない。
　こういうのなんて言うんだっけ。
　……そうか、キュン死か。
　キュン死は避けたいなと、英二はつくづく考えた。