ようこそ！　ホビーショップ『クラン＝G』へ！！｜リアクション

ようこそ！　ホビーショップ『クラン＝G』へ！！

　碧南にとって店は未体験ゾーンそのものだった。ゲームと言えば基本、乙女ゲーばかりやってきた身の上ゆえそれ以外のゲームについてはよく知らない。だからボードゲームにものすごく種類があることには素直に驚いたし。それぞれの付属品、色とりどり形もさまざまなサイコロ、丁寧なイラストカードにかわいらしいコマを眺めるだけでも心が躍った。
「洋二さんはこういうゲーム好きなんですか？」
　洋二に聞くと、
「そうだね。もちろん僕もコンピューターゲームだってやるけど、顔の見える相手と駆け引きするのだって楽しいものさ」
　と、いろいろと教えてくれた。一口にボードゲームと言っても、短時間でさっと遊べる軽量級から、数時間、下手をすると丸一日かかるくらいの大物まで様々、扱うテーマや内容も豊富で尽きることがないかのようだ。国内外でたくさんのメーカーが競い合っているだけでなく、個人規模いわゆる同人のボードゲームもたくさん出ているし『クラン＝G』では扱っている。
「すごいなあ。私、トランプとかチェスくらいしかわからなかったから……」
　私の知らない世界が開けていくような感じがする。
　何か実際に遊んでみたくなってきた。乙女ゲームのキャラを流用したトレーディングカードゲームがあるのも気になるところだ。

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「まず本のコーナーに行っていい？」『クラン＝G』に入ってすぐ想花は提案した。「この店にはTRPGのリプレイ本や創作に役立つ神話や歴史などの資料が豊富にそろってるんだよね」
「D'accord.（OK、くらいの意味）」紗櫻都に異議はなかった。「私も見てみたい」
　最近リアル書店は不調と言われている。ネット通販にかなり押されているようだ。想花とてネット通販を利用しないでもないが、本との偶然の出逢いという意味では実店舗には及ばないと思っている。この日もさっそく、クトゥルーやケルト神話関連の面白そうな書籍を見つけることができた。紗櫻都もファンタジー小説シリーズのイラスト集を見つけて興奮気味だ。
「すごい。これたしか英語版は絶版なんだよね」
　愛おしむように表紙をなでて、買って帰るよと紗櫻都は宣言した。
　フィギュアも見ない？　と想花は提案し、この日二度目の「D'accord.」を紗櫻都から引き出すのである。
　いわゆる美少女フィギュアもたくさんあるが、想花が惹かれるのはもっぱら、もっとずっといかつい海外製のフィギュアだった。ぎょろりとした目つきのゴブリンに臭いたつほど醜怪なオーク、ミノタウロスの筋肉の血管浮き出す造形美がたまらない、ドラゴンの鱗の質感と牙の鋭さたるや本物みたいだ。
「モンスターやクリーチャーなどのフィギュアなんかも見てると想像力を刺激されるんだよね。高くて買えないけど」
　自分なら『彼ら』をどう描くだろう。どう動かすだろう。民家を踏み潰し暴れ回る姿、剣に喉を掻き切られ斃（たお）れる姿、地鳴りのような吼え声すら脳内再生されてしまう。
　しかし購入はできない相談だ。セール中なので二十パーセントオフだが、それでも高い壁を感じてしまう。総じてフィギュア、とくに輸入物は財布への優しさを欠いている。いつかきっと、とサイクロップスのフィギュアに誓って棚に戻した。
「あ、そのフィギュア」紗櫻都が言った。「想花さんの服の柄にいるよ」
　えっ？　と想花は思い出す。確かに。自分が今着ているロンTの柄は棍棒をふるう一つ目巨人の絵だった。例によって北欧ヴァイキングメタルのアルバムジャケットモチーフである。二束三文で買った物だが着心地がいいので冬の定番着でもあった。「本当だ。そっくりだね」
「一緒だね」
「うん、一緒だ」
　笑いあう。フィギュアを作った造形師も、こんな風に喜ばれるとは思ってもみなかったにちがいない。