授業風景～３年芸術科の場合～｜リアクション

授業風景～３年芸術科の場合～

◆私を見て（２）

「ここからしばらくは和の時間だ」
　八神修が不敵に笑うと落ち着かない様子の月居歩が舞台に立つ。
　下駄がカランコロンと景気よく鳴るわりには、月居の表情は冴えなかった。
「月居歩！」
（やっぱ落ち着かねぇな）
　そんな彼の衣装は濃紺に白い縦縞の入ったシンプルな浴衣。
　それに献上柄の帯を合わせたため、渋めの出て立ちといえるだろう。
（まぁ悪くねぇとは思うんだがな、）
　恥はかき捨て。開き直って舞台を歩ききることに集中した月居の背中を、舞台袖で富士山権蔵が嬉しそうに眺めていた。

「次の和服美人は――」
　現れたのはカラスの髪に桜の花びらの折り重なった髪留めをつけた美人。
　枝垂れ桜の絵が美しい紫色の着物に黒い帯を合わせた上品な女はゆっくりと会場に向かって頭を下げた。
　あれは誰だと会場が沸く中、八神は女の名前を呼んだ。
「吉祥寺黒子！」
　名前を聞いて、より会場がざわめく。
　吉祥寺は気にせずに一歩ずつ進んでいく。
（みんな驚いてるな……）
　予想通りの反応を楽しみながら（まあ、二年前までの俺の姿だがな）表面はあくまでも礼儀正しく振舞うのだった。

「今度は……二人一緒に登場だ」
　手を取り合ってゆっくり入ってきたのは風間舞子とアネモネ・アドニス。
　今回は風間が漆黒の剣士に、アネモネが純白の花嫁に扮して舞台を歩く。
　アネモネよりも随分背の高い風間は男というよりはセクシーな剣士だったが、それでも先と雰囲気がガラリと変わったのは言うまでもない。
「この方が違和感ないかな」と屈託のない笑顔を見せた。
「かっこいいですわ」
　体の小さなアネモネは、笠原にお願いしてあちこち詰めてもらったドレスを着ている。
　変にシワが寄ってしまったところは花のコサージュで誤魔化して、傍目には問題がないように見える。
「アネモネもさっきの凛とした男装もよかったけれど可憐な花のようでいいね」
　ふたりは仲良くキャットウォークを歩き、先端で急遽こしらえたブーケを投げて、踵を返した。

「トリを務めるのは――」
　ズンドコズンズン、ズンドコドン。
　八神のアナウンスを遮って謎の音楽が流れ始める。
　その曲に合わせて歩いて出てきたのはX 我威亜。
　ちょっと膨らんでいるが、ごくごく平凡な学ラン姿で平凡な丸メガネをかけている。
　ちょっと――いや、だいぶ膨らんでいるが、髪は真っ黒ストレート。教師が喜びそうな格好だ。
「X 我威亜！」
　Xが歌い始める前に、八神はなんとか名前を呼んでふぅと息をついた。
　もうここからは好きにしてくれと言わんばかりである。
　そして言われなくともXは我が道を逝く。
　大雑把に頭を下げて「♪誰が呼んだか俺はワルエロ～」と彼は歌い始めるのだった。
「すごいですわね」
「確かにすごいね」
　舞台袖でアネモネと風間はジッとXの動向を見守っていた。
「♪そして～女が～目覚めたんだ～」
　コブシをきかせて歌うと、それに合わせてＢＧＭを大きくなった。
　キャットウォークの先端にたどり着いたXは両腕をクロスして『Ｘ』の形を作った。
「♪イヴが俺を食べたから　世界中の女はラブを知った～」
　曲の中で一番の盛り上がり。サビに入り、Xのテンションは最高潮。
　気分が高揚していることを示すように、彼の体は宙に浮いた。
「す、すげぇな……」
　写真を撮る手を止めてしまうほど、桜井もXから目をそらせなくなってしまう。
「♪だって俺はワルエロだから　愛を届ける伊達ワルエンジェル～」
　スポットライトも絞られ、Xひとりを照らしている。
　サビが繰り返されるとき、Xは学ランの上着を脱ぎ捨てた。
「♪伊達ワルエンジェル～」
　するとはらはらと薔薇が客席に舞い落ちた。
「な、な、痛いのだ!?」
　薔薇の集中砲火を受けた後木は意外な痛さに声をあげる。
「♪伊達ワルエンジェル～」
　今度はカツラを放り捨てる。
　その下にはミラーボールが仕込まれており、天井に七色をもたらした。
　本人相当熱いはずだ。
「♪伊達ワルエンジェル～」
　残っているのはメガネだけ。
　観客は固唾を呑んで次の展開を見守る。
　Xがメガネに手をかけた。
　観客がゴクリと喉を鳴らした。
　Xがメガネを放り投げた。
　観客はなにかを待った。
「♪伊達ワルエンジェル～」
　しかしなにも起こらなかった。
　そしてXはゆっくりと地に下りていき、舞台を後にした。
　ちなみにメガネの仕掛けは予算が足りなくなって中止したらしい。
　ちなみに彼を宙吊りにしているのは筋肉モリモリ、富士山であったらしい。

「みんなお疲れ様～！　すごくイケてたわ！」
　家庭科室に集まった生徒たちに笠原は心からの賞賛を送る。
「それから」と扉に手をかけ「入って～！」新聞部の三人を招き入れた。
「えっと、先生？」
「……記念撮影ってやつよ」
　服飾科、三年、六月の授業の集大成。
　全員一緒に集合写真をカシャリ。
　こうして思い出の一片は写真の中にしまいこまれた。

　ついでに、たくさん作った褌も記念に配られた。

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あとがき

担当マスター：つるこ。
ファンレターはマスターページから！

「人生を飾れ！」

皆様お疲れ様でした！
今回は私の趣味に走ってしまったためか、それとも皆様のアクションが素敵だったおかげか、特に筆の進みがよかったです。
なんてことはどうでもいいですね、ごめんなさい！
皆さんが生き生きと描けるように、頑張りました！
これは大事ですね。はい！
なんだかすごいことになってますけど、らっかみ！はフィクションですから。ファンタジーですから。多少のことだったらなんとでもなります！
そんなこんなで、一ヶ月間みなさまお疲れさまでした。

それから笠原七穂という新キャラに積極的に絡んでくださる方もいて、嬉しかったです。
これから彼女は三年七組の担任として皆さんの寝子島ライフを彩ってくれることでしょう。よろしくお願い致します。

ご意見、ご感想、叱咤激励その他もろもろは喜んで受け止めさせていただきます。
コメント欄、ダイアリーをご活用ください。よろしくお願い致します！

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