授業風景～３年芸術科の場合～｜リアクション

授業風景～３年芸術科の場合～

◆はじめまして、私

　四時間目の授業はショーの準備。
　各々、身も心も大舞台に備えていた。
　舞台の設営は演劇担当の富士山権蔵が指揮を取る。
「こんな派手なこともやらかすなんて、笠原ちゃんもナカナカね」
「あは……フジコ先生、無理言ってすみません」
　笠原七穂がペコペコと頭を下げる横で、X 我威亜は鼻を鳴らした。
「七穂は、迷惑をかけてばかりで困ったもんだぜ」
「……ってそれもこれも、キミのせいなんだけど!?」
　こんなやりとりをよそに、後木真央はこっそり授業を抜け出してお手伝いをしている。
「せっかくのフンドシショーなのだ！　いまお手伝いしなくて、いつするのだ！」
　いまやろう。ということで、授業はサボり。
　そして、サボりはもうひとりいた。
「プロジェクターはどこですか？」
「あ、修君今日は司会よろしくね～！　ちなみにそれはあっち」
　八神修。
　彼は笠原と相談をしながら、堂々と手伝いをしている。
　授業を抜けてきていることの是非はともかく、彼らの手伝いもあって、講堂にトリエンナーレと同様のキャットウォークが設置された。

　ところかわって、舞台の裏側・家庭科室。
　ここでは本日のキャストたちがもうひとりの自分とご対面の真っ最中である。
（もうひとりの自分な、）　
　鏡に映った自分をまじまじと見つめ、月居歩はひとつため息をついた。
（なんでファッションショーなんだ）
　いつもと少し違う自分を人前にさらすという行為。元より社交的とは言い難い月居が、乗り気なはずもなく。
　それでもきちんと着付けをして、姿を確認しているあたりが、彼らしいといえばそうなのかもしれなかった。

　打ち合わせを終えて、Xも自身の準備を始める。
　当然のごとく、化粧も含めなにからなにまで自分ひとりでこなしてしまい、準備中は誰も寄せ付けなかった。

「そ、その。私変ではないでしょうか？」
　恥ずかしそうに俯きながら、アネモネ・アドニスは風間舞子に自分の姿を確認してもらう。
「大丈夫。よく似合ってるよ……って触ったらダメだって」
　ワックスでかためた髪が気になり手を伸ばそうとすると、ぴしゃりと風間に叱られてしまった。
「す、すみません。どうにも気になりまして……」
「アネモネちゃん。舞子ちゃん。服着れた？」
　ちょうどふたりの準備が終わった頃に笠原がやってくる。
「終わってるよ」
「終わりましたわ」
「じゃあ、仕上げね。まずは舞子ちゃんから」
　そう言って、笠原は化粧を施していった。
　化粧を終えると、笠原はふたりの顔を見比べて満足げに頷いて、「ふたりは、出番が終わったら急いで控えに戻ってきてね？」と付け足した。
「はい」
「絶対よ？」
　これでもかというほど念を押して、笠原は次の生徒のもとへ向かう。
　

　周りがキャッキャとはしゃぐ中、吉祥寺黒子は鏡の中の自分をじっと見つめて、押し黙っていた。
「久しぶりだな」
　むりやり笑顔を作ると、鏡の中の彼女も同じように笑う。
　しばらくそのまま見つめ合ってから、吉祥寺は唇に紅を引いた。
　それからゆっくりと立ち上がると、「菜々緒、化粧できたか？」手間取っている芽森菜々緒の手伝うために、鏡の前から離れていった。

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