授業風景～３年芸術科の場合～｜リアクション

授業風景～３年芸術科の場合～

◆私を探しに

　授業初日の放課後。風間舞子は帰宅する同級生たちの背中をぼーっと眺め、ため息をついた。
「風間、どうしたんだ？」
　腐れ縁の後輩・桜井ラッセルがいつの間にか教室にやっていたのにも気がつかないほど、ぼんやりとしていたらしい。
「ああ、」
　風間は授業のことを桜井にこぼす。
「選考は絵画なんだよね。華のあるお題だが着るのが私というのもあって……」
　どうにもやる気が出ないということ告げると、桜井は声を荒げた。
「はあ!?　やる気ねーってどういうことだよ？
　芸術科だろ？　女の子だろ？　ファッションショーもやるんだろ？　しかも自分の作った服で！」
　熱のこもった桜井に気圧され、風間は目を丸くする。
　そして次のひとことが彼女に火をつけた。
「『作品』じゃん？　風間の一番好きな表現できる世界じゃねーの？」
　作品。
「それとも、自信ないのか？」
　風間の眼に力がこもる。
「……当日を楽しみにしてもらおうじゃないか！」
　と、風間は勢いよく立ち上がり、「おう、がんばれ～い。俺も当日冷やかしにいくよ～」桜井の応援を背に受け、教室を後にした。
　廊下に出てすぐ、手持ち無沙汰にウロウロとしているアネモネ・アドニスに遭遇する。
「アネモネ、良い所に。行こう！」
「え？」
　返事も待たずに彼女の腕を掴んで、風間は目的地に向かった。

　彼女らが向かった場所。
　それは手芸屋。
（もう一人の私……か。服に疎い分どの方向でもいけるが）
　悩みながら、風間は生地を見て、触れて作品のイメージを練り上げてく。
「風間様お決めになりましたの？」
　アネモネが同じ質問を投げかけてくる。
「まだ決まってないよ」
　答えもまた同じもの。
「けれど私も女だ。皆が度肝を抜く素晴らしい作品であっといわせようじゃないか！」
　しかし風間の表情は生き生きとしていて。
　もう心配ないとアネモネは胸を撫で下ろした。
「驚かす。かけ離れたイメージ……」
　イメージを呟きながら風間は生地を物色する。
「女、」
　そう呟いたとき、風間はちょうどレースを手にとっていた。
　繊細な花のレース。無意識に風間は見とれてしまう。
　そして閃いた。
「ドレスにしよう！」
「ドレス、でございますか？」
　アネモネは目を丸くして驚いている。
　それもそのはず。風間は不器用なのだ。
　心配するアネモネの視線を受けて、風間は笑った。
「値は張るが、練習で安いので試作品をつくって臨めばなんとかなるっ」
　やるからには全力で。
　風間の表情の清々しいことこの上なく。
　気がつくと、アネモネも微笑んでいた。

「どうするかな……」
　帰宅してからも月居歩はテーマを決められずにいた。
　絵画専攻の月居。ファッションに興味などなく、もうひとり、と言われてもいまひとつピンと来ない。
　月居は最終兵器・スマートフォンを取り出し、大手検索サイトGrugruで『ファッション』を検索した。
　ピポパの音とともに出てきたのは『夏の準備は出来てるか!?　浴衣大特集』という広告だった。
「そういや、そろそろ浴衣の季節か」
　なにげなく浴衣のつくり方を見ると、どうやらそこまで難しくないということも判明する。
　月居はいくつか浴衣の生地を眺めながら、「これなら、俺にもできるか」と静かに頷いた。

「三年がファッションショーするらしいぜ」という桜井のひとことは、後木真央を掻き立てた。
「修ちゃん、ラッセルちゃん！　卒業アルバムと校内新聞に載せようなのだ！」
　目をランランとさせて語る後木。
「おお！」と桜井は興味を示し、「いいアイデアだな」と八神も同意した。
　ふたりの反応を確認すると、後木は「さっそく七穂ちゃんセンセーのところに行ってくるのだ！」と走り去った。
　彼女のもうひとつの目的。　
『真央ちゃんは全年齢フンドシ普及活動に七穂ちゃんセンセーを巻き込むのだー！』
　というものは、まだ誰も知らない。

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