きみの腕のなかで　ぼくは呼吸をしていいかい？｜リアクション

きみの腕のなかで　ぼくは呼吸をしていいかい？

【しあわせあわせ】

　綾辻綾花は寝子高教師の早川珪に恋している。
　この日は休日、仲良くデート中に綾花は神魂の影響を受けてしまった。
「珪さん……ぎゅってしてもいいですか？」
「ん？　どうしたんだい急に？」
「珪さんをすごく抱きしめたくなってきちゃいました。駄目ですか？」
「ううん、僕も実は綾辻さんが愛おしく思えてきて、でも周囲の目があるから我慢してたんだ」
　これでもいち教諭なのだ、大っぴらに仲睦まじい姿を衆人環視に晒すのは気がひけるようだ。
「じゃあ、人目のないところなら大丈夫ですか？」
　せがむ綾花に押し切られるように、珪は彼女とカラオケボックスへ向かう事となった。

　密室で誰にも邪魔されなくなったところで、二人は求めあうようにハグし合う。
「卒業するまで、あと一か月ですね」
　教師と生徒の関係から新たな関係になるまで、あと一か月という意味でもある。
　まだ珪へ直接『好き』と言葉を伝えられていない綾花は、ついつい腕に力が入ってしまう。
　珪も綾花の思いの強さをハグの強さで推し量りながら、大人として問い掛けた。
「受験勉強は順調かい？」
「はい。受験は大変だけど、珪さんが応援してくれるから頑張れます」
「大丈夫、綾辻さんは頑張ってるから絶対に合格する。教師のお墨付きだ」
「嬉しいです、珪さん」
　綾花は自分の身体を押し付けるようにハグし、珪へ自分の体温を伝えてみせる。
　言葉では伝えられなかったが、それでも珪は綾花の慕情に気付いて受け入れ、卒業まで告白を待ってくれている。
　そんな優しい珪へ必死に態度と行動で愛を伝える綾花は、珪にとって愛おしく思えて仕方がない。
「あっ……珪さんも、ぎゅって抱き締めてくれて、嬉しいです……抱きしめられると安心感もあって幸せな気持ちになるんです」
「そうなのかい？　ドキドキしてるから不安にさせちゃっているかとばっかり」
「それは、珪さんとハグしているのが照れちゃうだけで……！　うぅ……！」
　顔を赤らめ、上目遣いで珪を見詰める綾花。
　深呼吸をして、意を決して言葉を紡ぎ出してゆく。