【節分】寝子島節分祭、および、霊界殺武無祭｜リアクション

【節分】寝子島節分祭、および、霊界殺武無祭

　逢魔が時、寝子島の節分祭と対を成すように、霊界でもただならぬ盛り上がりを見せる場所があった。
　それはただただ岩肌を見せる荒涼たる広場に、盛大な飾り付けを行ったお祭り会場だ。
「殺武無祭の季節になったか。うむうむ、熱気があってよいことだ」
　その様子を飄々と眺めていた青年の姿を取る猫又のあやかし、三毛谷道哉が枡と徳利に入れられた鬼たち特製の名酒『鬼酒』を手にしながら、盛り上がる光景を目にすっと興味深そうな瞳を細めてみせる。
「旦那、それじゃ行ってくるよ」
　前々からずっとこの祭りを楽しみにしていた若い烏天狗の疾風丸が、意気揚々と特等席を探している道哉に声を掛けた。
「ああ、私の分まで頑張っておくれよ」
「旦那も出れば良いのに、せっかくの祭りなんだから」
「私は乱闘なんて柄じゃないよ。今はもう楽しい喧嘩よりも旨い酒。当然応援するし――祭りなんだ。せっかくなら仲間が勝って晴れやかな気分で一杯を飲みたいからねぇ。期待してるよ、疾風丸」
「旦那がそこまで言うならますます負けられないな！　よし行くかぁ！」
　道哉がひょいひょいと手を振り、疾風丸の背中を見送る。
　瞬間――突如、大地が爆発するような音が木霊した。
「おっと、これは始まったかな？」

　広場は既に、あやかしたちが大小も形も何も差別なく『自分が一番だ！』と息巻く世界。実際に、あやかしの強さは外見とは関係のないものだ、力と大きいものが優位な事もあるが、小さいからと油断をすれば一撃KOされるなども当たり前。
　故に――そんな数多のあやかしたちが集まる広場の中空に、突然一人の女人が躍り出たとして。
　華麗に空で一回転して、落下とともに拳を大地に打ちつけ、文字通り大地を豪快に叩き割ったところで、一体誰が驚くで――否、息巻くだけだったあやかしたちの一部が、それだけで恐れをなして脱兎のごとくリタイアしていくではないか。
「何だい何だい？　こんなのただのご挨拶だろう？　――まあ、これが直撃して潰してしまうのは本望ではないからね」
　岩が砕けた地煙から、凛と通った声がする。見れば、一人の鬼の角が生えた健康美という言葉が相応しい女性――鏨紫が立ち上がって姿を表した。
「お久しぶりだね、皆。元気そうで何より！」
　その姿に、見知った顔がほぅとその勇ましさにため息を付く。
「姐さん、相変わらず剛毅だなぁ……！」
「なに、こんなのただの鼓みたいなものさ。祭りに鼓は欠かせないからね――さて、御託はここまでにして……始めるとしようじゃないか！」