イケナイコトカイ｜リアクション

イケナイコトカイ

　終了画面に進んだ。
　はずだったのだが。
　あああ、イケナイコトだとわかっているのに！
　英二は床に突っ伏している。
　やめどころが見つからず深夜になってしまったよ……。
　光陰矢のごとし、もうすぐ日付が変わるではないか。まさしく寝食を忘れて『TOS』に没頭してしまったのである。
　結局データをロードした英二は、数時間分のプレイ時間と引き換えに選択をやり直した。由真は仲間になり、かわりにターヤが死んで悲しい気持ちを味わった。
　ターヤがかわいそうだ。二週目のプレイでは仲間にしよう。
　でもこれでいいだろう。久々に思う存分ゲームができて英二は充実した気分だった。
　目的は達した。セーブして寝よう。このつづきは二次試験が終わってからだ。
　――の、つもりが。
　なぜなんだ！？
　ぼちぼち眠気を感じていたのもつかの間、一定時刻をすぎたせいかかえって目が冴えて、英二はコントラーラーを握った手を離すことができなかったのである。
　それというのも英二がゲーム入手前から気になっていたキャラクター、コードネーム『Ο（オミクロン）』こと大黒ミオが新手のガーナックとしてストーリーにからんできたためだ。ミオは由真をバージョンアップさせたようなキャラクターで、クールな出で立ちながら芯に熱いものをもっており、見た目を含め英二の好みに近いこと限りない。黒髪のロング、コスチュームも黒が基調で格好いい。能力値も抜群だ。『TOS』プレイ仲間でもある野々ののこによれば、「ちゃんと育てたら終盤でも一軍として活躍できる使い勝手のいいキャラ」だというではないか。
　深夜というよりはもはや朝方だ。外では朝刊配達のバイクの音まで聞こえはじめた。
　さすがにそろそろ寝よう。激しく後悔し絶望する前に。
　後悔はしつつあるが絶望はしていない。やっとの思いでゲーム機の電源を落とすと、英二はベッドにもぐりこんだのである。
　ところがゲームで頭がギンギンになったせいか、眠いはずなのに眠れないのだ。目を閉じてもなぜか、まぶたの裏には無数の記号が降ってくる。まるで落ち物パズルだ。降っては積もり、積もっては消えする記号たち。しかもその間ずっと、キーンという耳鳴りがBGMとして流れつづけている。
　明日……と言うかもう今日だね……の午前中の受験勉強は控えようかな。もはやこの時期にジタバタしてもはじまらないし。
　ある意味ひらきなおって、英二は考えごとに意識を振りわけた。
　野々さん、どうしてるかな。
　こんなときなぜかいつも、英二はののこのことが気になってしまう。

　この間は野々さんが僕のことを頼りにしてくれたよね。あと、栗ジュースの回し飲みで間接キッスになったり――。
　思い返すと頬が熱い。恋愛感情なのかはわからないが、ののこのことを思うと心があたたかくなる。それだけはまちがいないようだ。
　そういえば、野々さんも共通テスト受けたんだ。
　野々さん高一レベルの内容でも頭をショートさせてたけど、宝くじ一等当選級の幸運でいい結果が出たりしたら、木天蓼大学進学も夢じゃないかも？
　つまり僕、野々さんと一緒に大学に通えるかも！？
　そうなったらスゴク嬉しい！！
　キャンパスに通う自分とののこの姿を英二は想像した。ゲームだのアニメだのゴアラだの、他愛もない話をかわしながら、木天蓼大学の特徴的な門をくぐるところを。学食はカフェテリア、オープンテラスでキーマカレーを食べて、ゲームの情報を交換して――希望に満ちた未来のイメージはつきない。
　野々さんいまごろ、何してるかな。
　あ、そうか。寝てるか。