さよならのむこうがわ～深淵特急『死兆星』の旅～｜リアクション

さよならのむこうがわ～深淵特急『死兆星』の旅～

　
　皆の行く手に見えるのは、またしても温泉。
　どこまで進んでも温泉なのだろうか。
「猫は桶に乗せてやるのがいいだろう」
　月詠が提案すると、
「桶に乗せればお湯の上も渡れるし、いいと思います」
　萌々子が賛成する。　
　理沙はサニーをそっと桶に乗せた。
　湯気で前が見えないので、みんなで前に障害物がないか気を付けながらゆっくり進んでいく。
　温泉の魔力には抗いきれず、気持ちよくなりながら。
「きもちいい～」
「きもちいい～」
「きもちいい～」
　それにしても、湯から出ている顔や肩に当たる空気感がこれまでと違う。
　車両内にしては風が心地よく感じるが、走る列車の窓が開いていたら心地よいどころではないはず。
　どうやら湯気もこれまでより薄いようだ。
「ここはもしかして……」
　よく聞けば、遠くから鳥の声が聞こえる。
　もっとよく聞けば、木々が風に揺れる音が聞こえる。
　月詠がさっと絵を描いて紙飛行機をつくると、風に乗せてすーっと飛ばす。
　すると、紙飛行機が触れたところの湯気が吸い込まれ、晴れていく。
　すかさず海もろっこんを発動。
　晴れた空気に線を引き、湯気吸収能力付きの紙飛行機をますます遠くへと加速させていく。
　あうんの呼吸でろっこんを連動させた二人は目をあわせて頷いた。
「露天風呂だな」
　車両内のはずなのに、何故か「外」にいる。不思議な空間だった。
　そして、紙飛行機はコツンと何かに当たって着水、絵がよれよれになって消えたのでろっこんの効果も途絶えた。
　紙飛行機が当たったのは、露天風呂の終点、この車両の先頭部分のようだ。
　猫を模した湯口があることがわかった。
　再び湯気で見えなくなった視界の中、みんなで慎重にサニーの桶を運んでいくと、ついに到着。
　この湯口の隙間から、さらに先に進めそうだ。
（あの中に入るの？　大丈夫かな。がんばって）
　海は声が出ないのをもどかしく思いながら、祈るようにサニーを見つめる。
「サニーちゃん、頑張って……私達も頑張るわ！」
（そして先の皆も無事に成し遂げますように）
　声援を送りながら、理沙は祈る。
（僕もついていって何か手伝えないかな？）
　と思うタルトだが、湯口はけっこう小さく、下手に大きな猫が入ったら動けなくなりそうだ。
　だから、こうサニーに伝えるだけにした。
『滴ちゃんに、気持ち、ちゃんと伝えて。きっとわかってくれるよ』
　なあん。
　サニーは一声鳴いた。
『ありがとう、みんな……がんばるよ』
　猫語がわかるのはタルトだけだが、なぜか皆もサニーの思いが伝わった気がした。
　次の瞬間、サニーは湯口の中へ飛び込んでいき、姿を消した。

（別の車両で尽力しているだろう夏朝、夏夜、皆の武運を）
　久隆は願う。
「夏朝ちゃん、夏夜ちゃん、皆……私達はここまでだけど、頑張って来てね……！」
　理沙も、ここにいない双子の娘たちと皆に祈るようにエールを送るのだった。
「そうだな。戻ったらハッピーエンドに至った感想を、絵を描かせてもらいながらインタビューといこうか」
　月詠が言い。
「それじゃ露天風呂を楽しもう！」
　ののこはのんきに手を振り回して湯を跳ね飛ばす。
　すると海も、英二も、みんなもそのあとに続き、あたりには虹がかかったのだった。
　