さよならのむこうがわ～深淵特急『死兆星』の旅～｜リアクション

さよならのむこうがわ～深淵特急『死兆星』の旅～

　
「あれ？　なんだろあれ？」
　通路の先にいる人影を見て、ののこが言った。
　中央に立ちふさがっているのは腕章をつけた、『風紀委員でろろ』だった。
　さっきより湯気が薄れてきたが、風紀委員でろろの後方の風呂はもうもうと湯気を上げている。
　近づいた男子がふらついて、少し風紀委員でろろの肩にぶつかると。
「風呂での接触は不純だ！」
　怒られて、ぶつかった男子が突き落とされた。
　ドボン！
「ギャー！　アチチチ！」
　悲鳴が上がり、真っ赤に染まった肌の男子が浮かび上がった。
「えっ、あれって……」
（熱湯風呂に落とされたんだ……）
　英二はそう直感した。
　そして覚悟を決めた。
（野々さんのため、風紀委員でろろへの囮を引受けよう。熱湯風呂もドンと来い、だよ）
「野々さん、僕を置いて先へ行って」　
「えっ？」
　英二は風紀委員でろろに向かって足を踏み出すのだった。
　英二たちを見た風紀委員でろろが、怒り出す。
「男女二人きりで風呂とは、不純だ！」
「……まだぶつかってないのに。いや、わかるけどすごく弁明したい……」
　英二はつぶやいたが、言い訳の隙は与えてもらえないようだ。
　向かってくる風紀委員でろろ。
　英二が熱湯風呂落ちを覚悟したとき。
　カコーン！
　飛んできたケロニャンの洗面器が、風紀委員でろろを直撃した。
　見れば通路に落ちていた乗車記念の白タオルや石けんを手に、久隆が立っていた。
「風紀委員に暴力をふるうとは、公務執行妨害だ！　熱湯風呂に落ちろ！」
　風紀委員でろろの矛先が久隆に向いた。
　だが久隆は、向かってきた風紀委員でろろの腕をつかみ、逆に熱湯風呂へと投げ落とした！
　バシャーン！
「貴様等が熱湯に浸かり溺れていろ！」
　そう言い放つと久隆は、さっき放り込まれて溺れそうになっていた男子に手を差し伸べて引き上げる。
「極力全員無事に前方へ向かうぞ」
　そこへ、もう一体の風紀委員でろろが現れた。
「また出たか」　
　ケロニャンの洗面器を補充する久隆。
　だが風紀委員でろろは次の瞬間、熱湯風呂へと吹っ飛んだ！
　ドボン！
「『ペンは剣より出でて剣より強し』」
　愛猫萌々子が、ろっこんを使い杖ほどの大きさにしたペンで空中に線を描き、風紀委員でろろに衝撃波を浴びせたのだ。
「頑張るわね！」
　そう言いながらかまいたちの雪が突風を吹かせ、バランスを崩した風紀委員でろろを浴槽に落とす合わせ技だった。　
　その間に理沙は卵をお湯に入れ、猫おやつも作成する。
「熱湯だから温泉卵にちょうどいいわ」　
　理沙のろっこん『ささやかな手料理を』は、手料理を摂取した対象の疲労を回復するのだ。
　やってきた海は、そんな夫婦の姿を見て大切な恋人たちのことを思う。
（まだまだ終われない、たくさんのやりたいことがあるもの）
　