さよならのむこうがわ～深淵特急『死兆星』の旅～｜リアクション

さよならのむこうがわ～深淵特急『死兆星』の旅～

　
　少し前。
　温泉なのに何故か服を着ていた萌々子は、のんびり温泉に浸かる現・前風紀委員長の二人に必死に呼びかけていた。
「北風先輩、ぴりりちゃん！　温泉で伸びてる場合じゃないです！」
「温泉に罪はないわね」
「温泉は最高なのです」
　厳しい風紀委員長の面影はどこへやら、すっかり諦めムードで体を伸ばしている北風貴子と笛吹ぴりり。
（今日は先輩とのデートだったのに……！）
　もどかしい思いに歯噛みする萌々子。
　どうやら言葉では説得できそうにない。
「やる気にさせるにはもうこれしか……」
　萌々子は意を決して服を脱いでいく。
（こんな風紀の乱れに乱れた不純異性交友を連想させるようなアレコレをお出しされて、二人がのんびりお湯に浸かっているはずがないのです）
　ついには下着姿になって、
「……見てください私の姿を。これ着てデートするつもりでした！」
「「えっ」」
　ちょうど湯気が晴れて目の前に現れたのは、ものすごーくカゲキな下着。
　貴子とぴりりは目を剥いた。
　ピリピリピリー！
　思わず笛を吹き立ち上がる二人。
　狙い通り、けれど頬の赤さを隠せない萌々子。
「……改めて恥ずかしいですこの格好！　あの人以外に見せるつもりなかったのに！！」
「ふ、不純異性交遊は」
「は、ハレンチです！」
　風紀委員の本分を取り戻した二人に萌々子は訴える。
「お説教は後で聞きますから二人は子猫を探してください、洗面器に載せればお湯の上も渡れるはずです。私は妨害してくるどろでろろにろっこんで応戦します！　でも先に服だけ着させてください……」
「わかったわ……」　
「そうと決まれば、急ぐのです」
　貴子とぴりりは湯から上がり、服を着てサニーを探しに向かった。

「サニー！」
　ハルキとタルト、雪は、紫苑に抱かれたサニーを見つけた。
『がんばったね。大丈夫だよ、僕と一緒に行こう。もう少しで滴ちゃんに会えるよ』
　タルトは猫語でサニーに語りかけた。
　サニーが首に白いリボンを巻いていることにハルキは気づいた。
「あれは……シオさんが買ったリボン？」
　ハルキは、パートナーのシオの顔を思い浮かべる。
（今、会いたいよ、とても。サニーも白黒さんに会いたいだろうな。そこに理由なんてないよな）
　しみじみ思いながらふと、湯の浄化作用がどろろにも使えるんじやないか、とハルキは思いつく。
　そう思いついたハルキはサニーに呼びかける。
「サニー、濡れたお手々武器になるかも。ここのお水怖くないよ｣
「ニャー！」
　それを聞いた猫タルトが、自分の手をお湯につけて猫パンチして見せる。
「浄化湯ねこパンチ、だね｣
　ハルキが微笑むと、サニーは理解したようで、紫苑の胸から降りてきた。
「サニーちゃん！　疲れたでしょう？　サニーちゃん達が食べてくれるなら嬉しいわ」
　理沙が猫おやつを差し出すと、サニーは喉を鳴らしながら食べ始めた。
「はい、あなたも」　
「ああ、いただこう」　
　久隆も理沙の作った温泉卵を食べた。
（疲労回復……しますように）
　祈る理沙。
　その間にロザリーや英二とののこ、月詠に海、貴子とぴりりに萌々子も集まってきた。
「ごちそうさま。おかげで、元気になったよ」
　久隆の言葉に、サニーもうなずいてみせた。
「サニーちゃんを守って前方まで運んであげなきゃ」
　皆の無事のためなら滑ってでも車両前方へ連れて行こうと考えていた理沙だが、風紀委員でろろたちは温泉で浄化され、もう戦う必要はない。
　理沙が食べ終えたサニーを抱っこして、一行は進み始めた。
　