亀が迷って、人も迷って｜リアクション

亀が迷って、人も迷って

「くそっ、待て！」
　御剣は自身のスピードを上げて追いかけるものの、加速している分こまごまとした道は走りにくい。しかし学校の敷地から出てしばらく走ると、ようやく背中に亀がくくりつけられた猫を発見した。
「捕まえたっ！　……あれ？」
　暴れる猫の背中にあるのは亀の甲羅だけで、甲羅も例のアカミミガメとは違うものだった。
「ばかめ、すり替えておいたのだ！　……ぶわっ!?」
　よそ見をしていた後木は何かの段差につまづき、浅い川の中に思いっきりダイブしてしまった。冷たい水が髪や服に染み込む。
「つ、つめたっ！　なんでこんな所に川があるのだ！　……川？」
　後木は何も持っていない自分の手を見て、身体を起こして亀どころか人っ子一人いない道を見て、それからさらさらと流れる小川を見た。
「な、なんてことなのだーーーーーーーーーーーっっ！！！！！！」
「くそ、やっと追いついたぞ……亀はどこだ？」
　しばらくして駆けつけ、息を整えながら後木に詰め寄る御剣だが、後木はむすっとそっぽを向いたまま答えようとはしなかった。

「……というわけで川の中もけっこう探したんだが、見つからなかった。すまない」
　足を濡らした御剣が中庭のメンバーに対して頭を下げると、西野町が慌ててフォローをした。
「え、ええよそんな！　顔上げてや！　御剣くんのせいやないし！」
「そうだな、それに」
　いつの間にか眼鏡を外していた八神は「亀なら、そこにいるしな」と続けた。
「え？」
　八神があごで差した方を見ると、そこにはふわふわしたクッションの上で微動だにしない亀の姿があった。
「骨削を問い詰めたところ、あのすばしっこいのが亀を盗む前、俺達があの竜巻に気を引かれている間に、同じような大きさの石とすりかえておいたらしい。まあ、それに気づかなかったのもあれだが」
「……死んでるのか？」
「死んどらんよ、うちの豆腐で気絶しとるだけ」
　なるほど確かに、亀の横には小皿に乗った小さな豆腐がちょこんと置いてあった。
「それと、この亀の処遇についてだが、全員で話し合ってひとまず西野町に飼わせるということになった」
「そうなのか？」
「ああ、俺もできれば業者などに引き取ってもらうつもりだったが、下手に第三者に預けるとふとした瞬間に大混乱が起きかねないし、学校だと夜間などにまた誰が狙ってくるかもわからないからな。実家に住んでいる西野町ならその心配もいくらか少ないし、すでに亀を飼っている上、亀がろっこんを発動した時に気絶させて止められるので都合がいい」
　御剣は「けど、もしまた脱走したら……」と言おうとしたが、途中で八神に遮られた。
「ちなみに、西野町には絶対に脱走させないということと、もし脱走したらその後の処分は俺に一任させるということを約束してもらったから心配するな」
　捨て台詞のように言って八神がその場を去ると、御剣は西野町と目を合わせた。
「……大変だな」
「……あはは、頑張らんとね」
　慌ただしい昼休みはようやく終わり、午後の始業を知らせるチャイムが校内に響きわたった。

このページにイラストを設定する

あとがき

担当マスター：むょりん
ファンレターはマスターページから！

どうもこんにちは、むょりんです。まずはリアクションの執筆が大幅に遅れてしまい申し訳ありませんでした。
トラブルがあったとはいえこちらの失態ですので、今後からは迅速な執筆を心がけます。

とにもかくにも、これで亀のお話は一段落いたしました。
シナリオに参加してくださった方々には、改めて御礼申し上げます。

今後また亀（メロス）をそれとなく登場させてあげられたらな、なんてことを考えていますが、それはまた別のお話で。

ではまた、他のシナリオでお会いできるのを楽しみにしております。

↑ページトップに戻る