亀が迷って、人も迷って｜リアクション

亀が迷って、人も迷って

　四人が中庭に向かうと、御剣と八神はまだ亀の様子を少し離れて伺っていた。
「おお―！　メロスや！」
　西野町が真っ先に亀に向かっていったものの、八神の「待て」という強めの一言で足を止められてしまった。
「な、何なん……？」
　こわごわと振り返る西野町に、御剣が優しい声でフォローを入れた。
「知ってるかも知れないが、その亀は触られたら、もしくは何かしらのストレスを感じたら周囲の人間を無差別に迷わせるろっこんを持ってるんだ。うかつに近づくと危険だ」
　その後、集まったメンバーで亀をどうするかと話し合ったものの、放流派、飼育派ともに一歩も譲らず、議論は一歩も進まないまま昼休みが終わろうとしていた。
　そんな中で、隠れてチャンスを伺う人間が二人いた。
「『悋気の独楽』！」
　唐突に第二グラウンドの方で局地的な竜巻が起こり、土を巻き上げた。皆がそれに目を取られている間に足元を何者かがさっと通りぬけ、噴水の所にいた亀をさらっていった。
「よっしゃー！　亀はいただきなのだ！」
　その場にいた生徒たちは竜巻と亀の能力で反応が遅れてしまったが、御剣は迅速に体勢を立て直した。
「くそっ……八神、追うぞ！」
　御剣は一瞬まぶたを閉じ、意識を集中させる。頭のなかで撃鉄が鋭い音を立てて落ちた。
「加速……完了！」
　猛然と駆けて行った御剣を見送り、八神はどこからか取り出した眼鏡をかけた。
「あのすばしっこいのは体育会系に任せておくとして……お前は俺様と屋上にでも行こうか、骨削？」
　茂みに近づいてニヤッと笑うと、ふてぶてしい笑顔を顔にはりつけた骨削が両手を上げて姿を表した。
「……おやおや、バレてたんだねぇ。どーも八神はん」
「当たり前だ。俺様が気づかないとでも思ったか？　そのまま隠れていれば見逃してやったものを」

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