【進路・受験】君等の道、未来のために｜リアクション

【進路・受験】君等の道、未来のために

ダイヤ乱れのねこでんで

　ねこでんは寝子島大橋の手前で停車している。
　椎井莉鳥はため息を吐いた。
（朝早くに家を出て乗ったにもかかわらず、まだ寝子島大橋を渡り切れていないなんて）
　焦っても仕方がない……今日の試験科目の教科書を開いたものの、莉鳥の視線は窓の外へと向いていた。

　莉鳥は高校を１年留年した。自分でもよくわからない衝動、としか言いようのない奔流が莉鳥の中を荒れ狂い、一時期学校生活を放棄したからだ。大学進学に当たって、莉鳥が意識したこと――それは夢を叶えるとか、自分探しとか、そういったものではなく、とにかく手に職をつけるということだった。
　莉鳥は留年はしたものの、成績不振ではなく、むしろ理数系の成績はよい。
　そんな自分に合う資格は、と考えて、選んだ進路は木天蓼大学薬学部。薬剤師への道である。
（高校も大学も私立で金銭面の負担が大きい。資格を取って食いはぐれない道を選ぶわ）
　そう決断した背景には、フラフラした元カレの影響があったりなかったりするのだろうか。
　兎にも角にも、混沌とした留年時代を経て、今の莉鳥の心はわりとクリアだ。

　窓の外に降りしきる真っ白な雪。
　その雪を見て、莉鳥はほんの先日参加することになった、猫鳴館のお年玉＆お年賀争奪戦のことを思い出した。露出激しめの水着着用で犬耳と犬尻尾も必須という、バカげたイベントだった。受験直前にこんなことしている場合か、と自己ツッコミも盛大に参加したのだが、かえって開き直って妙にすがすがしい気分になった。
　それに、陸上部の後輩からは『学業御守・合格祈願』の文字が燦然と輝くお守りをもらった。
（妙にぐいぐい来る子だったけど……）
　お守りは彼女の地元の神社のもので、受験の神様として有名だという。
　評判が確かなら今日の試験もきっと大丈夫だろう。
　と、車内アナウンスがかかった。

「本日は、雪のためダイヤが乱れ、大変ご迷惑をおかけしております。受験生のみなさまにおかれましては、ご心配をおかけして申し訳ございません。私事ながら、うちの娘も本日受験でございまして……みなさまのこれまでの努力が実りますことを、心より応援しております」

　娘を心配する父親の顔が垣間見えるアナウンスに、車内ではクスクス笑いが広がる。
　向こうで顔を赤くして友だちに突かれている子が娘さんらしい。
（……あの子のおかげで、私たちまで応援してもらえたわね）
　がくん、と車両が揺れて電車が動き出す。
　莉鳥は教科書に視線を戻した。
　集中しているうちに終点に着く。
　後は全力投入するのみだ。