【進路・受験】君等の道、未来のために｜リアクション

【進路・受験】君等の道、未来のために

解く、解く、解く

　試験開始の時刻が迫り、教室の席もほとんどが埋まった。
　その中では、ののこのアホ毛もぴょこぴょこしている。
「えー、試験５分前となりました。鉛筆と消しゴム以外のものは机の上に出さないでください」
　そういってぐるりと教室を見渡した試験監督は、ん！？と目を丸くする。
「そこ。不要なものはしまって」
　注意を受けた八十八旗信彦は立ち上がった。
「チッチッ、不要なものじゃないよ。これは親から送られてきた『学業成就の御守り』」
「しまって」
「これは彼女から貰った『タコのぬいぐるみ』。オクトパスだけに、置くとパスするって……」
「しまってください」
「それと、後輩から貰った『雨宮校長のオチがない話集』もあ……あれ？　オチがないって、滑りっぱなしってことじゃね！？」
「うん、全部しまってくださいねーテストに関係ないものは机に出してたらダメだから」
「ですよねー」
　寝子高で信彦を知っている者たちの中にはあちゃーと額を抑えている人もいるが、大半は思わず笑っている。信彦と試験監督のコント的やりとりは緊張している受験生たちの心をすこしばかりほぐせたようだ。

　いよいよ開始時刻になり「はじめ」と声がかかる。
　一斉に問題冊子を開く音。
　寒くないよう厚着をして臨んでいる恵御納夏夜は、問題を見た瞬間、くらりと眩むような感覚を覚える。
（これは、見慣れぬ文字で書かれた魔導書？　ううん、落ち着け。ただの試験問題だ……焦るな。書ける所から書いていくんだ）
　夏夜は目を閉じて深呼吸する。目を開く。
（大丈夫、よく見れば解いたことのある問題にそっくりじゃないか。落ち着けば必ず解ける……！　今までのろっこんや敵の仕業に比べればはるかに楽なはず……！）

　桜井ラッセルはざっと全体に目を通し、わかるところからガンガン埋めていく。
（あ、この問題、必勝ノートに赤ペンであった注意のところのだ。綴りは確か……）
　
　長文問題に差し掛かった綾辻綾花は、とある名著の文章を引用した問題文を読むうちに、ふいに早川珪の横顔を思い出してドキッとしてしまった。
（この本、珪先生が読んでいました……）
　図書委員の仕事で図書室を訪れたとき。
　先に来ていた珪先生は窓際で本を読んでいた。
　思わず見惚れた横顔。あのときの光の加減や、自分の心臓のドキドキまでが蘇ってくる。
（ああ、そう。このドキドキは、試験の緊張じゃありません。あのとき珪先生に感じたもの……）
　だから、大丈夫。そう思えた瞬間、ふっと緊張が緩む。
　――頑張って。応援しているからね。
　珪の言葉と手のぬくもりを思い出すと、自然と鼓動も落ち着いてくる。

　こうして、受験者たちは１日目の試験を終えたのだった。