【進路・受験】君等の道、未来のために｜リアクション

【進路・受験】君等の道、未来のために

試験はマタ大本校で

　共通テストの会場となっている木天蓼大学・本キャンパスには、木天蓼市や近隣の高校から受験者が集まってきていた。雪ということもあって、ダイヤの乱れや渋滞も考慮にいれて、余裕をもって会場に到着している生徒も多い。
　桜井ラッセルはそんな用心深い学生のひとりだった。
　ゆうべは興奮と緊張であまり寝れなかったが、お守りは持ったし、合格祈願カツカレーも食べ縁起担ぎしたし、準備は万端だ。
　試験を受ける教室に入るとまだ無人で。
「わ、一番乗りかよ」
　ちょっとドキドキしながら、机に貼られた試験番号を確認して、自分の席につく。
　大学の教室は、高校の教室とは雰囲気が違う。教室前にあるのも黒板ではなくてホワイトボードだ。
（入学したらこういうところで学ぶんだな）
　なんて思うけれど、まだ、具体的な大学生活のイメージを持つところまでは至らない。
　いやいや。まずは今日の試験に集中しなければ。
　ラッセルは木天蓼大学芸術学部を志望している。
（絵では中々食っていけないのをみて寝子高では普通科選んだのに）
　夢を追いかける先輩の姿が眩しかった。先生や級友の影響もある。
（結局のところ俺、芸術が好きで、それなしじゃあ生きていけないって気づいちまったもんな）
　高校は違っていた旧友の海道千も同じマタ大を受けるという。彼は医学部だが、二人とも受かればいっしょのキャンパスライフを送れるかもしれない。
（問題だった苦手な英語もリスニングや必勝ノートや授業のおかげで伸びてきた。これまでの集大成だ。結果出さなきゃ笑われちまう）
　頑張るぞ、と、意気込んでいると、教室に八神修と八十八旗信彦が入って来た。
「おはよう桜井」
「おー、八神も同じ教室か。八神はほとんど全教科受けるんだろ？」
「そうだな」
　修は日本で最難関であろう東大理科三類を受験する。だが修の表情からは緊張は感じられない。
　普通にやれば普通に受かる。そんな自信が漲っている。
「やがみーん！」
　信彦が修にダイブで抱きついた。
「やがみんの自信、俺にも分けてー！」
「大丈夫だよ、八十八旗。準備はしっかりしたんだろう？」
「そうなんだけどさ。輝かしいキャンパスライフを謳歌するためにも、共通テストで躓くわけにはいかないって思うと緊張してさ」
「わかった。これから俺がいうことを実践するんだ。人人人と手のひらに書いて呑む」
「それテッパンのおまじないじゃん！」
「テッパンだから効くんだよ」
　信彦は、人人人と手のひらに書いて、ごくんと呑んだ。
　すると、信彦の表情がみるみる輝き――。
「人事を尽くして天命を待つとは、正にこのこと！　共通テストなんて基本的な問題ばかりなのだから、脊椎反射テストみたいなものさ。大丈夫、俺ならできる、はず！」
「そうだ、八十八旗なら出来る」
「忘れ物もないよう昨日２回も確認したし、なんだったら筆記用具なんて予備１セットも持ってきているし、抜かりはない、はず！」
「そうだ、八十八旗なら大丈夫」
「ありがとうやがみん！　俺、やれるわ！」
　信彦は大大大感謝で修にハグをすると、自分の席を探しに行った。
　それを見ていたラッセルは、
「八神、すごいな。俺もやろ、人人人……」
「ははは。桜井だって大丈夫だよ」
「八神もな。難しいとこ受けるんだろうけど、頑張れよ」
　修は、ああ、と頷く。
（思えば長かった――）
　八神家に連れてこられる前、今の母ではなく、実母を亡くした時の決意。
（小学生のあの時に、敵は母を苛んだ病だと定めたんだ）
　病こそ母の仇。仇は討たねばならない。その思いは幼い修の心に深く楔を打った。
　だからこそ、父の跡を継ぐのではなく、医者になろうと思ったのだ。
（緊張などするものか。今日の試験、俺にとってはただ大学に入るためのものではない。病と闘う武器を手に入れる。その行動がやっと出来るんだ……）