ハッピーバースデー！　１月☆｜リアクション

ハッピーバースデー！　１月☆

●ブレスレット

　倉前七瀬はウォルター・Bを誘って、喫茶店へ赴いた。シーサイドタウンに最近できた店でレトロな造りを前面にだしていた。

「新しくできたお店なのに、古くて懐かしいって面白いですよね」
「そうだねえ」

　入店すると、店内も懐かしさを感じる雰囲気だった。メニューを眺めるウォルターの手首をじっと見る。２人とも紅茶を注文した後も、手首から視線を外さない。

（僕がプレゼントしたブレスレットは使ってくれているのだろうか……）

　5月3日の誕生石『グリーンジルコン』をあしらった、シンプルなブレスレット。七瀬がウォルターのハーブバースデーのお祝いにと買ったものだ。ウォルターが長袖なので、いまそのブレスレットをしてるかは分からない。
　紅茶が運ばれてきたところで、ウォルターが切り出す。

「僕の腕になにかついてるかい？」
「え？」
「君がずっと見ているから」
「僕そんなに見ていましたか？」

　ウォルターは首を縦に振った。七瀬は両手で顔を静かに覆った。

「いや、ブレスレットを使ってくれているのか気になりまして……。もしウォルターさんにとっていらないものを僕が贈っていたのだとしたら申し訳ないですし」
「そんなことはないよ」

　そう話しながら袖を少しまくるウォルター。手首に付けたブレスレットの緑が輝く。それを見て七瀬は安堵の息を吐いた。

「使ってくれているのなら嬉しいです」

　精一杯の言葉を口にした後、紅茶を一気に飲み干した。ウォルターはしみじみとブレスレットを眺める。

「これは僕のハーフバースデーでくれたんだよね」
「そうでしたね」
「だからお返しを考えてきたんだよ」
「お返し？　いえ、あれは僕が勝手にしたことで、僕はハーフバースデーをお祝いしてもらう理由なんてないですよ」

　僕にはあるんだよ、と言ってウォルターはラッピングされた袋を取り出した。七瀬はそれを受け取るつもりがないが、きっと押し問答になるだろうと思った。　

「僕だけお祝いの品をもらうのも気が引けるからね」
「……わかりました」

　差し出された袋を七瀬はそっと受け取った。開けてみるとルビーがあしらわれたブレスレットが入っている。ルビーは７月の誕生石で、小粒ながら綺麗な赤色を放っている。

「ありがとうございます」
「喜んでもらえたなら嬉しいよ」

　そのとき、ふと七瀬は７月に祝ってもらったときのことを思い出す。わがままかもしれませんが、と一言前置きをした。

「……名前で呼んでください。また、あの日みたいに」

　ウォルターは静かに頷いた。

「七瀬、ハーフバースデーおめでとう」

　七瀬はこそばゆいような気持ちを、受け取ったプレゼントとともに大事に抱えた。