ハッピーバースデー！　１月☆｜リアクション

ハッピーバースデー！　１月☆

●ダブルデート

　ある日曜日。
　水上桜は昼過ぎに寝子島スポーツセンターへ向かった。今日は今付き合っているマタ工水泳部の滝沢匠との自主練習という名のデート。温水プールは冬でも水に触れられるので、練習にとても向いている。
　いつものように受付の前に向かうと、すでに匠がいつもの待ち合わせ場所に立っていた。はにかむようにして手を振りながら声を掛ける。

「滝沢君、待った？」
「大丈夫。今来たところ」

　このやりとりは桜に『付き合っている』という実感を与える。手続きを済ませると更衣室まで並んで歩く。

「それじゃまた後で」
「うん」

　それぞれの更衣室へ入っていくと各々の水着に着替える。これはデートなのかと問われれば、桜はそうだと首肯する。人によっては疑問符を浮かべるかもしれないが、彼女と匠にとって紛れもなくデートだ。

「よし」

　桜は水着に着替えて競泳キャップを被ると気合を入れた。プールサイドに向かうと同じく着替えた匠と合流した。それからはいつものようにしっかり練習に励む。
　今日の練習を終え、温かいシャワーを浴びたら更衣室でさっと着替えを済ませる。
　ふとスマホをチェックすると有沢茉奈から着信が来ていた。更衣室を出てからかけ直すと『彼氏連れてmiao前まで来るように！』とのこと。詳細について触れる前に電話は切れてしまった。
　そこに着替えを終えた匠がやってきた。事情を話すと彼は素直に頷いた。

　　　＊　　＊　　＊

　miao前。
　茉奈は彼氏の閑野カノンとともに桜と匠を待っていた。じつは彼女は匠から桜の誕生日プレゼントについて相談を受けていた。

（あたしのほうは決まっていたけどね）

　ちらりとカノンのほうを見る。
　彼はマタ大の芸術学部に在籍中の、将来有望なアーティスト。そんな彼に桜へのプレゼントを何にしたらいいかと尋ねたら、彼自身がデザインしたノンホールピアスを提案したので作ってもらった。しかし相談に来た匠はどうにも悩んでいたようで、茉奈も一緒に考えた。

「桜は自分でアクセをデザインするのが趣味だから……滝沢君さ、マタ工で何やってんの？」
「電気科だけど」
「電気科かー。じゃあその電気科で使うパーツとかでアクセとか作ったら？」
「それって手抜きじゃね？」
「機械とかのパーツでアクセ作るのも立派なプレゼントだよ？　あの子そういうのも好んで作るしさ」

　そんな会話を経て、匠は何を作るかを決めたようだった。それが何かは分からないが、彼の顔を見て大丈夫だろうと思った。茉奈は誕生日当日にバースデイパーティの準備をし、カラオケボックスに予約を入れた。
　そして話は今に戻り、こうして寝子島スポーツセンターから２人が来るのを待っている。

　　　＊　　＊　　＊

　桜と匠がmiao前に到着すると、すでに茉奈とその彼氏が待っていた。合流すると茉奈はカラオケの予約をしていることを伝え、４人で移動する。２時間ほど歌い続け、いよいよ終盤に入った頃。

「桜、誕生日おめでとう！」

　茉奈がマイクを片手に言った。桜も忘れていたわけでは無いが、不意打ちだった。

「滝沢君、桜にプレゼントあるでしょ？」

　話を振られた匠は鞄から箱をひとつ取り出した。それを大事に抱えて桜の前に立った。

「誕生日おめでとう」

　照れくさそうに差し出された箱を、桜は丁寧に受け取った。一言断って開けると、彼自身が作ったというサイバーなイメージのペンダントトップだった。

「滝沢君……ありがとう……」

　思わず涙が出て、滝沢君を慌てさせてしまった。桜は受け取ったそれを大事に抱えた。

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