お餅が攻めてきたぞっ！｜リアクション

お餅が攻めてきたぞっ！

「皆、礼を言う。私をこうまでして食べてくれる気概に感服した！」
　白いおっさんは自身を餅の妖精と名乗った。
　どう見ても全身白タイツを着込んだ中年男性なのだが。
　おかげで風紀委員の笛吹ぴりりが、すごい剣幕で笛を鳴らしながら食堂へ駆け込んできた。
「風紀の乱れを感知したのです！　警察へ通報するのです！　部外者も出てってくださいなのです！」
「ちょ、ちょっと待って！」
　慌てて幸次がぴりりのスマホを持つ手を掴んだ。
「えっと……確かに、このおじさんは最近騒がれてる不審者だけど、その正体は善意でお餅を配ってる親切な人だったんだよ。硬くなった鏡餅の食べ方を教えてくれるし、どんどんお餅を提供してくれるし。配ってくれたお餅だって、安全なお餅だよ」
「そ、そうだよ！　あとシオは僕の友達で、こっちの千くんはラッセルくんの友達だよ。両方とも寝子高生じゃないけど、お餅を消費するために手伝ってくれてるんだっ♪」
「あ～、これはイベントです、そうだ、お餅イベントだ！」
　必死に虚実織り交ぜて弁解する幸次とタルト、そして御剣に、ぴりりのとった行動とは？
「では風紀委員として、この場を監督するのです！　決してお餅を食べたいとか、そういう理由じゃないのです！」
　あ、きっと食べたいんだな……と全員が暗黙の了解を得た。
「それと……い、いつまで手を握ってるのですか！？　ははは恥ずかしいのでしゅ！」
　ぴりりが顔を真っ赤にして目を潤ませているのに気付き、幸次は慌てて手を離したのだった。

　こうして何故か風紀委員が見守る中、大量のカチカチお餅を調理する事になった作戦班。
「出でよ！　お餅料理の鉄人！」
　何故か御剣が音頭を取って食堂の長テーブルに陣取っている。
　その隣で楡宮が言葉をまくし立てだす。
「お餅に飽きたと理由で疎まれる悲しき鏡餅を救うべく、寝子島が誇るお餅の鉄人たちが腕を振るうわ！」
　どうやら実況と解説を二人で担当するようだ。
　そこへラッセル扮するリポーターがお玉を逆さま持って調理場を観察している。
「放送席、放送席！　此方、現場の桜井だぜ！　今、旅鴉がお餅をレンチンするみたいだ！」
「ふん。硬すぎるならそのまま電子レンジにつっこむまで。500wなら5分くらいで十分。表面固くて中は消しゴムくらいを目安に。こうすると包丁でも斬ることができる。そうなったら喜べ鏡餅。一口サイズにお前を刻んでやろう。この旅鴉月詠、容赦せんッ！」
　怪しい顔付きで電子レンジを駆使する月詠に対して、タルトは先程から空気ポンプと格闘していた。
「あの～タルトさん？　なんで子供用室内プールを膨らませているのですか？」
　シオの疑問にタルトが汗を拭いながら答えた。
「大量の硬いお餅を効率よく使うために、お湯で溶かせばいけると思ったから、ビニールプールのお湯に洗いながら入れようかなって。ほら、そのまま調理するのは衛生的に問題ありそうなんで」
　確かに、神魂の影響とはいえ野晒しにされた鏡餅をそのまま口にするのは気が引けるものだ。
「そろそろお湯も沸騰するし、どんどんここへお餅を投入しちゃおっか！　火傷に気を付けて！」
　タルトの名案で固くなった大量のお餅が湯がかれてふやけていく。
　あとは電子レンジと併用すれば、あっという間に調理の準備が整っていった。

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