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- 種族
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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
一心精進
「それは……」
「私に隠さないといけないことがあるんですか？」
ずっと綾花の中で尾を引いていたのは、クリスマスのキスを失敗したこと……では、ない。
引っかかっていたのはそれ自体ではなく、なぜ珪がそんな態度をとったのか、だ。
彼とは手を繋ぐのもどこか当たり前になってきて、珪さんという呼び名も訂正されないのにって。
気持ちが知りたいと尋ねれば、あるときは綾花そっくりなテディベアに鼻先を触れ合わせて、あるときは綾花自身を優しく抱きしめてくれたのにって。
少なくとも、珪にとって『ただの生徒』ではないのだろうと思わせてくれた。それとなく伝えてきた想いに気づいた上で、迷惑だなんて素振りも見せず……それどころか彼は、愛が満ちた仕草を返してくれた。
なのにどうして、今になって。
「……お見合いのことが関係してますか？」
もちろん、珪自身が断っていると言ったことは信じている。でも、付き合い上断りきれず、紹介してくれた人の顔を立てるために食事だけでもという話は、本の世界にはありがちだ。……そうして物語の人物は出逢い、恋に発展していくことも。
「まったく無関係とは、言わないよ」
「なら！」
実際のところがどうであるのかなど、見合いをしたことのない綾花にはわからない。
ただ彼がそういう年頃であり、こうして見た目も整っていれば、声がかかるのもひとつふたつではないのだろうと察しはする。
けれど、彼が悩んでいるなら、黙って見過ごすわけにはいかない。
たとえ頼りなくたって、話を聞くくらいはできる。一緒に悩んで、味方として傍で寄り添ってあげられる。力になれるのにと叫びたくて手を伸ばし、珪の上着を掴もうとしたが――その手は、ゆるゆると下げられた。
（おせっかい、なのかな）
あの日、珪がとった距離こそが答えなのかもしれない。そうは思っても、やっぱり綾花には想いを止める理由なんて何ひとつなかった。
彼がまだ綾花を『ただの生徒』と思っていようとも、『特別な生徒』と思っていてくれたとしても。３月が終わるまでは、確かに彼の生徒だ。それは変えようのない事実だと自覚している。
では、綾花が珪を想う気持ちも『先生に憧れている』だけなのか？ ……答えは、否だ。
今、彼と向き合っているこの瞬間だってそう。間違いなく、１人の女性として言葉を紡いでいる。彼にどう思われていたとしても、綾花の想いは変わらないなら、伝える言葉だって変わらない。
「珪さんは大切な人だから、笑顔でいてほしいんです」
本屋の袋を持つ珪の手を包むこむように、綾花はその手を優しく握りしめた。
迷惑だって振り払われたら仕方ない。子供には関係ないと言われたらそれまでだ。だけど。
「１人で抱えないでください。……力に、なりたいんです」
そうなるかもしれないと逃げたからって、何も変えられない。
何もしなければ嫌われることはないだろうけど、好きになんてなってもらえない。
なら、こうして見つめて、手を握って。伝えられる限りの熱を伝えるしかないではないか。
「……じゃあ、はい」
「へっ？」
先程まで珪が持っていた袋は、するりと綾花の手に移された。
どうしてこんなタイミングなのかと驚きながら、袋を落とさないようにしっかりと受け取る。珪はというと、くすくす笑いながら助手席のドアをあけて綾花に座るよう促していた。
「綾辻さんが持っていてくれて助かったよ。やっぱり１人で抱える物じゃないね」
「え……違いますよ、私が言ったのは」
荷物のことではなくて、悩みのことで。
軽くしてほしいのは手ではなく、心なのに。
「違わないよ。買いすぎた荷物を運ぶ手伝いをしてくれる……そうでしょう？」
――そういうことに、しておいてくれないかな。
本当のことには気づいているけれど、それを正面から受け取れないとき。
いつかの秋の丘で、そういえば学校で流星群を見たときも、彼は度々似たような顔を見せていた。
強い否定の言葉を口にせず、少し困った笑みを浮かべて。とぼけたフリで濁すのは、珪の癖なのだろうか。
（もしかして、あのときも……本当に困っていたんじゃなくて）
ちゃんと綾花の言葉は届いている。その上で、言いたいことを言えないときに癖が出るのかもしれない。
例えば今日なら、珪は綾花を部屋に招き入れる口実を探している、とか。でなければ、『荷物を運ぶ手伝い』なんてさせないはずだ。
（だとしたら）
ずっとスマートで大人だとばかり思っていた彼の、ちょっぴり不器用なところ。そこに隠されて見えなかったものが、もう少しで見えるような気がする。
「しっかりお届けしますね！」
だから綾花は微笑んで見せる。
彼が本音を口に出せるようにと、気づかないふりをして。
「私に隠さないといけないことがあるんですか？」
ずっと綾花の中で尾を引いていたのは、クリスマスのキスを失敗したこと……では、ない。
引っかかっていたのはそれ自体ではなく、なぜ珪がそんな態度をとったのか、だ。
彼とは手を繋ぐのもどこか当たり前になってきて、珪さんという呼び名も訂正されないのにって。
気持ちが知りたいと尋ねれば、あるときは綾花そっくりなテディベアに鼻先を触れ合わせて、あるときは綾花自身を優しく抱きしめてくれたのにって。
少なくとも、珪にとって『ただの生徒』ではないのだろうと思わせてくれた。それとなく伝えてきた想いに気づいた上で、迷惑だなんて素振りも見せず……それどころか彼は、愛が満ちた仕草を返してくれた。
なのにどうして、今になって。
「……お見合いのことが関係してますか？」
もちろん、珪自身が断っていると言ったことは信じている。でも、付き合い上断りきれず、紹介してくれた人の顔を立てるために食事だけでもという話は、本の世界にはありがちだ。……そうして物語の人物は出逢い、恋に発展していくことも。
「まったく無関係とは、言わないよ」
「なら！」
実際のところがどうであるのかなど、見合いをしたことのない綾花にはわからない。
ただ彼がそういう年頃であり、こうして見た目も整っていれば、声がかかるのもひとつふたつではないのだろうと察しはする。
けれど、彼が悩んでいるなら、黙って見過ごすわけにはいかない。
たとえ頼りなくたって、話を聞くくらいはできる。一緒に悩んで、味方として傍で寄り添ってあげられる。力になれるのにと叫びたくて手を伸ばし、珪の上着を掴もうとしたが――その手は、ゆるゆると下げられた。
（おせっかい、なのかな）
あの日、珪がとった距離こそが答えなのかもしれない。そうは思っても、やっぱり綾花には想いを止める理由なんて何ひとつなかった。
彼がまだ綾花を『ただの生徒』と思っていようとも、『特別な生徒』と思っていてくれたとしても。３月が終わるまでは、確かに彼の生徒だ。それは変えようのない事実だと自覚している。
では、綾花が珪を想う気持ちも『先生に憧れている』だけなのか？ ……答えは、否だ。
今、彼と向き合っているこの瞬間だってそう。間違いなく、１人の女性として言葉を紡いでいる。彼にどう思われていたとしても、綾花の想いは変わらないなら、伝える言葉だって変わらない。
「珪さんは大切な人だから、笑顔でいてほしいんです」
本屋の袋を持つ珪の手を包むこむように、綾花はその手を優しく握りしめた。
迷惑だって振り払われたら仕方ない。子供には関係ないと言われたらそれまでだ。だけど。
「１人で抱えないでください。……力に、なりたいんです」
そうなるかもしれないと逃げたからって、何も変えられない。
何もしなければ嫌われることはないだろうけど、好きになんてなってもらえない。
なら、こうして見つめて、手を握って。伝えられる限りの熱を伝えるしかないではないか。
「……じゃあ、はい」
「へっ？」
先程まで珪が持っていた袋は、するりと綾花の手に移された。
どうしてこんなタイミングなのかと驚きながら、袋を落とさないようにしっかりと受け取る。珪はというと、くすくす笑いながら助手席のドアをあけて綾花に座るよう促していた。
「綾辻さんが持っていてくれて助かったよ。やっぱり１人で抱える物じゃないね」
「え……違いますよ、私が言ったのは」
荷物のことではなくて、悩みのことで。
軽くしてほしいのは手ではなく、心なのに。
「違わないよ。買いすぎた荷物を運ぶ手伝いをしてくれる……そうでしょう？」
――そういうことに、しておいてくれないかな。
本当のことには気づいているけれど、それを正面から受け取れないとき。
いつかの秋の丘で、そういえば学校で流星群を見たときも、彼は度々似たような顔を見せていた。
強い否定の言葉を口にせず、少し困った笑みを浮かべて。とぼけたフリで濁すのは、珪の癖なのだろうか。
（もしかして、あのときも……本当に困っていたんじゃなくて）
ちゃんと綾花の言葉は届いている。その上で、言いたいことを言えないときに癖が出るのかもしれない。
例えば今日なら、珪は綾花を部屋に招き入れる口実を探している、とか。でなければ、『荷物を運ぶ手伝い』なんてさせないはずだ。
（だとしたら）
ずっとスマートで大人だとばかり思っていた彼の、ちょっぴり不器用なところ。そこに隠されて見えなかったものが、もう少しで見えるような気がする。
「しっかりお届けしますね！」
だから綾花は微笑んで見せる。
彼が本音を口に出せるようにと、気づかないふりをして。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2023年10月09日
- 参加申し込みの期限
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- 2023年10月16日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2023年10月16日 11時00分
