【お正月】３つの世界を巡る魔行列車の旅｜リアクション

【お正月】３つの世界を巡る魔行列車の旅

　魔行列車は霊界を走る。窓辺に座る天満七星は夢心地の表情で眺めていた。古風な着物姿は他の乗客にも見られ、周囲とよく馴染んでいた。
　流れる景色に目をやりつつ、摘まんだ物を顔の前に持っていく。
　――この不思議な切符はいつの間にか袖の中にありました。用途を何となく想像していましたが、このような状態になるとは思っていませんでした。
　静かに過去を振り返る。表情はとても穏やかで怯えた様子は微塵も見られない。家の中でくつろぐ姿と重なる。
　新たな駅に到着した。車内の賑やかな声は小さくなり、乗降の音に支配された。
　七星は窓から、その一端を目にした。
　――見た目は普通の人ですわ。形容しがたい方もいらっしゃいますが、恐ろしい感じはしません。この環境に少し慣れてきたのでしょうか。
　飽きることなく見ていると停車時間の三十分が経った。
　魔行列車は再び走り始める。
「私も駅に……」
　思いが口に出た。流れる景色の中に何かを求めるような目を向ける。
　黒々とした木々は巨大な人影のように見える。いつまでも続く巨人の行進を眺めていると、白い霧のようなものが発生した。途端に一帯は白く覆われ、幻想的な風景を醸し出す。
　減速を感じた七星は立ち上がる。乗客が殺到する前にドアへと向かった。

　七星は霧深い浅縹（あさはなだ）駅に降り立った。閑散としたホームを出て周囲を見回す。
　――濃霧でしょうか。とても白くて何もないようでいて、どこか流れているようにも見えます。不思議な感じがします。
　適当に決めた方向に七星は歩き出す。
「……静かですわ」
　人の気配はなく、車内で耳にした温泉の位置もわからない。手探りの状態で歩を進めるしかなかった。
　――この白さで私まで白くなりそうです。実際に自分の手が少し見えづらくなっていますわ。怖いと思う気持ちよりも新鮮な感じが勝って、新しい自分を見つけられそうに思えるのですわ。
　口元に笑みが浮かぶ。一部の白が薄まって木々の一部が見えた。
　――見えなかったものが見えます。この霧に包まれていれば私も、自分が知らなかった私を見つけられるようになるのかしら？

　期待で胸が膨らむ中、周囲に明かりのようなものがぽつぽつと現れる。浮遊しているようで手を伸ばすと、ふわりと逃げる。触れたと思っても熱はなく、丸くした目を指先に向けた。
　――人魂の類いなのでしょうか。ふわふわとしながらどこか意思のようなものが感じられます。あちらに多くいるようですが。
　儚げな光に誘われるようにして歩いていくと、古めかしい建物が現れた。
「……硫黄の匂いですわ」
　七星は落ち着いた態度で建物の中へ入る。
　人は見つけられず、取り敢えず奥を目指した。すぐに脱衣所のようなところに行き当たる。空のカゴがいくつも置かれていた。
　――ここまで来たのですから、入ってみましょう。
　するすると着物を脱ぐと、白い湯気が立ち込める中へ足を踏み入れた。
　――誰もいないようですが、あとから現れるのでしょうか。泉質も何もわかりませんが、この匂いは嫌いではありませんわ。
　近くの木桶を手にして掛かり湯を済ませると白く煙る中に素足を浸し、ゆっくりと身体を沈めていった。
「……良い湯加減ですわ」
　七星は白い湯気を見やり、脱力するように脚を伸ばしていった。

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