【お正月】めでたや初春、猫の島の犬の年｜リアクション

【お正月】めでたや初春、猫の島の犬の年

☆三人の初詣

（まだ唇に昨日……大晦日に交わしたファーストキスの記憶が残っているみたい）
　
　例年は家族と初詣をはしごするのですが、今年羽生碧南はバスケ部の後輩浅見柚乃と霧生愛と３人で寝子島神社へお参りに向かいました。
「高身長女子の私たちは何を着るにも一苦労。だから普段はどうしてもラフな服装が多いけど、年に一度のお正月くらい晴れ着とか着たいじゃない」
　そう碧南は二人に声をかけ、晴れ着をレンタルしたのでした。
　艶やかな晴れ着を纏った長身の三人はいやが上にも目立ち、道行く人も目を奪われているようでした。

(和服なんてめったに着ないから、夏の時に着た浴衣同様、何となく落ち着かないな）
　紺地に様々な色の大きな花が彩られた晴れ着を着た愛がそんなことを思っていると。
「その晴れ着似合うよ」
　碧南が笑いかけてきたと同時に、一瞬、刺さるような視線が向けられるのを感じました。
　言うまでもなく柚乃から向けられたものです。
　それに気づかないふりをしながら愛は、
「ありがとうございます」
　と碧南に返事をするのでした。
「先輩の晴れ着こそ、とてもお似合いです」
　表面上は穏やかに柚乃は、白に椿柄の晴れ着姿の碧南に熱い眼差しを注ぎながら言い。
「ありがとう。柚乃のもとっても素敵よ」
　碧南は何事もなかったかのように柚乃をフォローし。
「ありがとうございます……」
　白に黒の川の柄が入った生地に梅柄の大人びた晴れ着を纏った柚乃は、嬉しさと恥ずかしさを目元ににじませるのでした。
　
　笑顔の陰で柚乃は、内心のどろどろとした思いを必死に押し隠していました。
（碧南先輩はこの前、片想いだった鷹取洋二という先輩と両想いになった。私の想いは永遠に届かない想いになった。本当ならここで祝福すべきなのに……）
　あの夏の日の事故のようなキスから、柚乃は碧南への愛を自覚してしまい。
　もう尊敬する先輩として純粋な思いで見られなくなったことを悲しく思うのでした。

　愛は、そんな柚乃の様子にいたたまれないものを感じていました。
（あの夜以来、浅見先輩からの敵意は今のところ私に向けられることはなくなった。
それでもやはり無意識に向けられる。浅見先輩の鷹取という人への嫉妬は逆に増したような気がする）

　神社へ向かう途中参道商店街を歩いていると。
「あっ、犬的の射的だ。やってみない？」
　碧南は楽し気に声をかけましたが、柚乃の瞳は暗く光りました。
「ええ、やりましょう」
　良い返事をしながら腹の中では。
（鷹取洋二とやら……射殺する！）
　という思いが渦巻いており、殺気と共に銃にコルク弾を込めました。
「お先に撃ってもいいですか？」
　銃を構えた柚乃は目に入る犬的を鷹取に見立て、撃つ！　撃つ！　殺！
　的のほとんどが、激情を乗せた弾に射殺されていきます。
「すごいわ柚乃、うまいのね」
　碧南は朗らかに言いますが、愛ははらはらしながらその様子を見守っていました。
（どうやったら浅見先輩の執着心を取り除くことができるのだろう？　このままでは浅見先輩は取り返しのつかないことになりそうで）
　そんな自分の心配に気づき、愛は驚きました。
（……なぜ、私は浅見先輩のことを心配してるの。あんな人、勝手に自滅すればいいのに……でも、放置できそうにない）
　そんなモヤモヤする思いを、愛も射的にぶつけまくり。
「すごいじゃない、８割的中よ！」
　碧南の賛辞に、またしても柚乃に睨まれる羽目になったのでした。
　そして最後に碧南が、笑顔で犬的を狙いました。
「９割命中！　さすが碧南先輩！」
　大喜びする三人の横で、射的のお兄さんが泣きそうになっていました。
「……あー、さすがに景品全部もらう気はないですから。みんな、嵩張らないものをいくつかもらっていきましょうか」
　碧南の言葉に頷き、柚乃と愛は賞品を吟味するのでした。