【お正月】めでたや初春、猫の島の犬の年｜リアクション

【お正月】めでたや初春、猫の島の犬の年

☆大晦日の後で

　ピコン。
　ニャインに送ったメッセージに反応があり、倉前七瀬は慌ててスマホを見つめました。
『今年もよろしく』
　と門松とともに書かれたスタンプが一つ。　
　大晦日から寝子島神社で年越し初詣を過ごした七瀬は、無性にその人に会いたくなりました。
（一緒に旧市街散策へ……でも、元日から迷惑なのでは？）
　そう思ったものの、誘ってみたい思いを抑えることができなくて。
　スマホを取り出し、再びメッセージを送ります。
『お休みのところご迷惑かとも思いますが、もしよかったら……旧市街の参道商店街の散策に、ご一緒していただけませんか？』
　返事が怖いような気持ちでそのまま画面を見つめていると、まもなく既読がつきました。
　そして。
『いいよぉ。どこに行けばいい？』
　現れた文字を信じられないような、小躍りしそうな思いで見つめて、七瀬は返事を書いたのでした。
　
「こっちですー！」
　現れたウォルター・Bに、七瀬は手を振りました。
　近づいてきたウォルターに頭を下げて。
「貴重なお休みにありがとうございます。それと、あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとう～。それじゃ、行こうか」
　しばらく前に犬耳を生やしていたのが嘘のように、ウォルターはいつものウォルターでした。

「わー、露店がたくさん！　元日からこんなに賑やかなんて、なんだかわくわくしますねぇ」
「そうだねぇ」
　歓声を上げた七瀬に、ウォルターは頷きました。
「さて、まずは何か食べませんか？」
「いいねえ、倉前は何食べたい？」
「うーん、定番のがいいですね。お好み焼きにしようかな」　
「じゃあ僕もそれにしよう」
　二人はお好み焼きを買って、ベンチに座って食べました。
「露店のものって特別感あっていいですよねぇ。普段より美味しく感じます」
「うん。なかなか食べる機会ないしねぇ」

　食後も二人は露店を見て回ります。
「あ、ウォルターさん射的がありますよ。犬的ですって」
「お、倉前は得意なの？」
「全然得意ではないですが、なんだか今日はイケる気がします！」
　七瀬は弾を込めると、犬尽くしの景品を見回しました
「戌年ですし、あのシェパードっぽい犬にします。見ててくださいねぇ～。うおりゃー！」
　パーン！
　コルク弾は明後日の方向に飛んで行きました。
「今のは練習です……」　
　ニヤニヤして眺めているウォルターに、小さい声で言い訳しつつ、二発目に挑戦します。
（やはり勢いだけではうまくいかんとですか）　　
　今度は落ち着いて狙ってみました。
　パーン！
「うおっ、結構近くに行きました！　次は三度目の正直です！」
　弾は後一発。
「よく狙って……バーン！」
　弾は二発目よりは少し遠くをかすめていったのでした。
「どうでしたか、僕の腕前は……！」
「惜しかったねぇ」
「失敗してしまいましたが、楽しかったです」
　満足げに七瀬は言うのでした。
「ささ、次はウォルターさんの番ですよ」
「僕？　いいのかなぁ、大人が本気出しても」
「いいでしょう、遠慮なくやっちゃってください」
　ウォルターが弾を込める姿はそれだけで様になっていて、七瀬はつい見とれてしまいました。
　パーン！
　一発で犬の人形が吹っ飛び、七瀬は目を輝かせて拍手しました。
「おー、ウォルターさんは射撃部顧問というだけあって、さすがの腕前ですねぇ」
「あんまり大きな声で言わないでよぉ。顧問は顧問なだけで選手じゃないからねぇ」
　そう言いつつ次の弾を込めたウォルターは、立て続けに景品をゲットしたのでした。
「はい、これは七瀬に」　
　最初に仕留めたシェパードっぽい犬の人形を、ウォルターは七瀬に渡してくれました。
「ええんですか？！　ありがとうございます！」
　押し戴いた犬を、七瀬は大切にバッグにしまいました。
「ああ、いい一年の始まりです。楽しかった。やっぱりウォルターさんをお誘いして正解でした」

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