【お正月】めでたや初春、猫の島の犬の年｜リアクション

【お正月】めでたや初春、猫の島の犬の年

　神社についた三人は、お賽銭を入れて手を合わせました。
（何とか浅見先輩が碧南先輩のことを諦められますように）
　自分のことよりも、そう祈ってしまっている愛。
（……どうか先輩と鷹取とやらが破局しますように）
　その柚乃はそう願ってしまっていました。
　次の瞬間ハッ、としました。
（……私今どんな顔をしていた？　感情が表情に出ていない？）
　恐る恐る碧南のほうをうかがうと。
（綺麗……）
　祈っている碧南の横顔はとても美しく、思わず見とれてしまいました。
（今年もいいことありますように。シンプルだけど、これが一番！）
　去年はいろいろあったけど鷹取先輩と両想いになり、女子バスも優勝できて、十分良い年だったと言えるから。
　今年もそうでありますように、と祈る碧南でした。

「わんこみくじですって。碧南先輩、引いてみましょうよ」
　気分を変えるため、柚乃は碧南にそうもちかけました。
（先輩の恋愛運がよくなければ、鷹取のことをあきらめてくれるかも……？）
　そんなかすかな望みを胸に潜ませて。
「それじゃ、私から」
　引いた碧南はわんこの絵が描かれたおみくじを開き。
「１……大吉！　やったー！　今年は幸先良すぎ！」
　と歓声を上げました。
「よ……よかったですね」
「ありがとう」
「じゃあ、私も」
　愛がおみくじを引きます。
「小吉（３）ですね。一年の出だしとしてはこんなもの……かな？」
「私の番ね」
　最後に引いた柚乃は結果を見て、息を飲みました。
「６……大凶」
　おみくじには耳と尻尾を垂らしてしょぼんとした犬が描かれており、柚乃の顔はこわばっていました。
「残念だったわね……あ、おみくじは枝に結ぶといい結果になるって聞いたわよ」
　慰める碧南。
「そうですね……」
（落ち込んだのは大凶を引き当てたからじゃない。自己嫌悪だ。先輩の幸せを喜んであげられなかったから……）

　そこへ。
「あ、私？」
　ウキウキを隠せない碧南のスマホに着信がありました。
「はい……えっ、洋二さん？」
　急におしとやかになった碧南の横顔を、二人ははっとして見つめました。
「今近くにいる？　……それじゃ、これから行きます」
　電話を切るが早いか、碧南は二人に頭を下げました。
「ごめんなさい、急用が入っちゃって……これで失礼するね」
「いえ、お気遣いなく。今日は楽しかったです」　
　愛はそう言って手を振り。
「今日はありがとうございました……お気をつけて」
　柚乃は必死で作った笑顔でそれだけ言うのでした。
「じゃあ、また学校で」

　いそいそと歩き出す碧南の後ろ姿を、柚乃は泣きたい思いで見つめていました。
（大凶……自業自得かしら）
「あの、それじゃ私も失礼します……」
　気まずい思いで愛は告げましたが、その声は柚乃には届いていないようでした。

（ふたりで初詣、私は二度目だけど初詣！）
　飛ぶように洋二の下へ向かう碧南は、そんな柚乃の思いなど知る由もないのでした。