【お正月】めでたや初春、猫の島の犬の年｜リアクション

【お正月】めでたや初春、猫の島の犬の年

☆年始のサプライズ

　まずは初詣、と八神修は寝子島神社へやってきました。
「あけましておめでとう、修君」
　神社で温かそうなファーコートを着た七夜あおいと合流します。
「明けましておめでとう、あおい。今年もよろしく」
「こちらこそ」
　二人はにっこり、笑いあいます。
「それじゃ参拝しよう」
「受験の合格をお願いするの？」
　そう訊ねるあおいに修は答えます。
「自分のことは、いつも願いではなく報告してる。だから東大受験への想いも神前に報告するよ」
「そうだね、修くんなら神様にお願いしなくても合格できるよ」
　手を抜くことなく学んできた自負が、修にはありました。

　参拝を済ませ人ごみを抜けて修は、『絶対合格！』と刺繍が入ったお守りをあおいに見せました。
「お守りも力を貸してくれるしね」
　雪舞うクリスマス前の休日に、あおいがくれた手作りのお守りです。
「私も持ってるよ」
　あおいは深い蒼のお守りを取り出して見せました。
　あおいがくれたお守りと対になるように、猫の刺繍をしたお守り。
　挫けそうになった時開いてほしい、と渡したお守りの中身を、あおいはまだ知らないことでしょう。
　それを見て微笑みながら、修は告げました。
「頑張るよ。あおいの応援が何よりの力になる！　ホントさ」
（俺が神に願うのは、あおいの幸せだ）
「うん。……あ、修君、甘酒飲まない？」
　境内を出たところで売っていた甘酒を見つけ、あおいが言いました。
「ああ。温まりそうだ」
　あおいの笑顔を見ながら、修は幸せな気持ちで甘酒を呑みました。
「美味しいね！」
「ああ」
　体も心もぽかぽかになるようでした。

「さて。それじゃ年始のサプライズを受け取ってもらえるかな」
「えっ？　喜んで！」　
　微笑むあおいを連れて、修はタクシーに乗り込みます。
　行先を告げずにタクシーは走り出しましたが。
（ま、あおいはピンとくるかもしれないな）
　そう思いながらあおいの横顔を見ると、安心しきった笑みを浮かべています。
（去年も俺の操船で島一周のクルーズを経験済みだものね）

　星ヶ丘マリーナに着き、二人は車を降りました。
　修はあおいを埠頭へ誘います。
　あおいの目が大きく見開かれました。
「えっ、……もしかしてこれに乗るの？」
　去年の小型のプレジャーボートよりもずっと大きな船に驚くあおい。
「去年と同じと思った？　けど今回は、操船は俺じゃないし、船も大きいんだ」
　修はサプライズ成功に満足気な笑みを浮かべました。
「ニューイヤークルーズでミニ旅行と洒落こもう」

　あおいは嬉しそうに船に乗り込み、修が続きます。
「どこに行くの？」
「そうだな。鈴島とか、花咲く岸壁とか」
　去年は安全な操船に集中したため、ずっとあおいの笑顔を見ているわけにはいかなかったけれど。
（今年は潮風とか、大好きな君の笑顔が、俺も笑顔にしてくれるよ）
　あおいの隣に並んで、修は愛する女性と新年を過ごす喜びを確かめるように味わっていました。
「今年も宜しく」
「よろしくね」