【お正月】めでたや初春、猫の島の犬の年｜リアクション

【お正月】めでたや初春、猫の島の犬の年

「ごちそうさまでした。あの、片付け手伝います」
　お腹一杯になった千恵は言いましたが。
「準備を手伝ってもらったから大丈夫ですよ。ゆっくりくつろいでください」
　あいおが言い。
「そうよ、こどもはえんりょせずお正月らしくあそぶのよ。かきぞめとか凧もあるよ」
　と、明里が指さす方を見ると。
『ご自由にどうぞ』と用意されていた硯に墨汁、筆といった書初めセットがありました。
「書初めか……比べられることもないし、ちょっと書いてみようかな」　
　千恵が迷っている風なので、想花はそう言って筆を手にしました。
「何書くの？」
「……うーん。中二っぽい言葉は書くの難しいし。『平和』かな」
　去年は大変なことがたくさんあったので、せめて少しでも平和に過ごしたいと願いを込めて。
　想花は、力を抜いて書初めを書き上げました。
「こんなもんかな」
「私もやろう。書き初めの文字、『料理』にしようかな！」
　千恵も筆を取り、料理の字を書いていきます。
「画数おおいから配置にきをつけないと……うううん、こうかな」
　少しバランスが悪くなり、納得いかない様子の千恵。
「上手いと思うけど」
　小学生らしい字ですが、のびのびしているのはいいな、と想花は思いました。
（僕は子供らしいはみ出すくらいのびのびした絵とか字が、どうしても書けなかったから）
「もう一枚……どうだ……！」
　二枚目に挑戦した千恵の字は、緊張しつつもこだわりと気合も入り、まずまずの出来に仕上がりました。
「あっ、猫さんも書初めしてる」
　隅で道哉が肉球スタンプを押していました。
（思ったより楽しいな）
　筆も咥えて、絵のような線を描いてみたり。
「汚しちゃだめだよ」
　と千恵に筆を取り上げられてしまいましたが。
「あーあ、真っ黒じゃない。綺麗にしよう」
　墨で汚れた肉球を千恵が拭いてくれました。
（そうそうそこだよ。自分でもやろうと思えば届くが、人にされるのはまた格別な気持ち良さがあるよねぇ）
　道哉はすっかり満足しています。
（ううん、猫らいふは良い物だ）
　
「凧揚げもしようかな」
　千恵は用意されていたやっこ凧を手に取ります。
「凧？　うまくできるかな……」　
　自信のない想花ですが。
「お兄ちゃんと揚げたことあるから大丈夫」　
　千恵に誘われるまま、庭に出ました。
「うう、寒い……」
　肩を抱いて震える想花に千恵は言います。
「これ持って、そこに立っててもらえますか」
　言われた通りにすると、糸を持った千恵が走り出します。
「凧、離してくださーい！」　
「うわっ」
　手を離すと凧は、空へと舞い上がりました。
（弟が揚げてたっけ。僕は全然できなかった）　
　そんなことを思っていると。
「お姉さんも揚げてみる？」
「いいの？　落ちちゃうかも……」
「大丈夫」
　糸を受け取った途端、風に引っ張られるのを感じて、慌てて想花は力を込めました。
「凧……上がってる」　
　楽しいかも。
　初めて想花は凧揚げの楽しさを知った気がしました。

　その頃リビングでは、そろそろお開きの空気になっていました。
『おやつもあれば頂くんだが、流石に横着かな』
　道哉がつぶやいた時、明里が手土産で集まった温かいスイーツやデザートを配り始めました。
『ミニ鯛焼きか、これはありがたい』
　心行くまで食べた道哉は、満足してごろんと丸くなったのでした。
『満腹だよ』

「新年会、みんな楽しんでくれてよかったです」
　あいおはみんなの様子を見ながらつぶやき。
「私も帰ってきて楽しかったですー」
　アイオも満足そうでした。　