【お正月】めでたや初春、猫の島の犬の年｜リアクション

【お正月】めでたや初春、猫の島の犬の年

「ん……何かいい匂い」
　入学時の手違いで本来入るはずだった桜花寮には入れず、猫鳴館で暮らし始めて初めての正月を迎えた月原想花は、鍋の匂いで目を覚ましました。
　ベリーショートになった髪をくしゃくしゃ掻きまわし、寝間着代わりのロンＴワンピの上に寝子高ジャージをひっかけて、眼鏡をかけます。
（大晦日に犬になるとか意味不明な出来事ですっかり疲れちゃった……でも、お腹すいたな）
　髪型が変わって「あれ、月原だよな？　あいつクールビューティだったのか？」とか最近言われるようになりましたが、猫鳴館の寮生たちの反応は少し違う気がしました。相変わらずというか、なんというか家族に対するような気安さがあるというか。
　匂いのする方へ行くと、包丁の音が響き、中央には鍋が煮えていました。
「あっ、想花ちゃん！　いいところにきたのよ！　たべものがいっぱいあるから、切るの手伝って～」
　明里につかまった想花は、反射的に答えました。
「あっ、はい……」
　有無を言わさず（明里にそんなつもりはないのですが）鍋の食材を切る係に任命された想花は、いつものごとく手伝いに入ります。
「あの、手ほどきしてもらっていいですかっ……！　包丁慣れてなくて」
　千恵が想花に声をかけました。
（あれ、こんな小さい子も来てるんだ。誰かの妹かな？）
「……うん、手を切らないように気をつけてね」　
　おっかなびっくりで包丁を持って具材を切る千恵に、包丁の持ち方などを教えながら想花はつぶやきました。
「猫鳴館に来てからぼくは手先がとにかく器用になった。そうしなければここでは暮らせない」
「そうなんだ……」
　千恵は思いました。
（私も練習すれば上手になれるのかな）

「それじゃ、切った具材を入れるわね」
　美野梨が鍋に具材を投入していきます。
「いい匂いがするわねえ。鍋の具が気になるわ。もしかして……ズワイガニ？」
　いつの間にかふらっと現れた猫館鳴が、うっとりした目で鍋を見つめていました。
「カニの足もちょっとは入っていますよー」
　あいおが答えるのでした。
（いつもの猫鳴館の光景……でも、今年は卒業だから、猫鳴館にいられるのも3月までなのね）
　しみじみと思う美野梨。
「あら、今日は珍しいお客さんが多いわね」
　ラウンジにはいつの間にか、寮生や他の人や、近所の猫たちまで集まっていました。
　猫たちの中に、一本しっぼのふつうの猫姿になった猫又、三毛谷道哉がいました。
『明けたね。あけましておめでとう。今日は特に用事といったものでもないんだが、新年会を開くときいてきてみたよ。お前さんもお零れ目当てかい？』
　近所の猫に挨拶する道哉。
『正月はここでけっこう余り物をもらえるからニャ。まだかニャ』　
　そう答える猫と、世間話を続けました。
『冬はどうにも身が重くてねぇ。炬燵で丸くなってしまうし、すぐ猫団子になってしまうよ。今日は暖かい物に楽にありつけそうだしねぇ』
　リビングではカルタやゲームをやっている寮生たちもいました。
『面白そうだねえ』
　道哉はきまぐれにカルタにちょっかいかけます。
「こらっ、邪魔するな」
　怒られますが、ぴょんと手の届かないところに逃げました。
『これも愛情表現だよ。最近、化けっぱなしだったから気を完全に抜いて過ごすのも正月だからよいだろう』

『腹が減ったニャー』
　空腹そうな猫たちを見かねて、
『どれ、ちょっと様子を見てくるかね』
　道哉は料理の様子を見ようと鍋に近づきます。
「あっ、猫さん。だめだめ、危ないよ」
　家で猫を飼っている千恵が、慣れた様子で道哉を抱き上げました。
「さあ、できましたよ！」
　アイオの声に、皆が部屋から顔を出しました。

「さてさて集まったレディース＆ジェントルマン、とあやかしとほしびとのみなさーん！
　あけましておめでとうございます」
　あいおはアイオと共に立ち上がり、挨拶します。
「新しい年を迎えるにあたって……えーっと……特に言うことないのでとりあえず出来上がった鍋食べましょう。
　年末の福引で当てた肉と野菜と、カニも入ってるけど足が数本だけなので争奪戦になりまーす」
　歓声が上がり、皆の目の色が変わります。
「多少暖房が効いてなくてもあったかい鍋とみんなの熱気で冬なんてあっさり越してやりますからねぇ。それじゃみんなでいただきましょう」
　アイオが声を被せ、
「「いただきます！」」
　皆が声を合わせ、一斉に食べ物に手を伸ばしました。
　鍋だけでなく、おせち料理とかピザとかその他諸々が集まっていて、食べるものには困らない状態です。

「ちわー」
「おじゃましまーす！」
　海道千里と桜井ラッセルも顔を出しました。
「これ土産」
　千里は初売りで買った温かスイーツを友人に手渡します。
「いらっしゃーい、ようこそなのよ」　
　明里が声をかけ、二人に箸と食器を手渡しました。
「サンキュー、いただきまーす」

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