授業風景～２年体育科の場合～｜リアクション

授業風景～２年体育科の場合～

「ね……ねこんび……ねこ……またたび……」
　ふらふらと歩くのはそう、個人的生存をかけた大冒険真っ最中の後木だ。
「……うー……ちがうのだー、いまは、……ごはん？」
　こてん、と首を傾げたらぐらりとめまいに襲われた。これはひどい。
　ほてほてとグラウンド前の道路を歩く姿は、いかにも頼りない。
「う？」
　ぼんやりした頭に、賑やかなグラウンドの歓声が聞こえる。
　そういえば、もっちゃんセンパイ達が楽しみにしていた授業があった。なんで楽しみだったんだっけ。ああそうだサッカーだ。まゆちゃん先生の。まゆちゃん先生と言えば可愛い。じゃなくて、特製ドリンクだ。あれを飲んだら元気になるかもしれない。いやきっとなるだろう。たぶんそうだろう。だとしたらもらいに行こうそうしよう。
　なんだか色々と怪しい思考で結論を出すと、後木はふらふらとグラウンドへ向かった。

「あ゛～、まゆちゃんゼンゼー…ゲホゲホッ」
　久坂の暴走に頭を抱えていたまゆ先生が、背後から聞こえてきたガラガラ声にびくっと小さく飛び上がった。
「なっ、え、真央ちゃん！？」
　マスクにひえぴた、赤ら顔でふらふらしている後木に目を見開く。
「ちょっとどうしたの、大丈夫！？」
　背を撫でて顔を覗き込む。授業はどうしたのか、等という愚問は出てこない。
「う゛～、鬼の霍乱で早退なのだー。でも寮に食べ物ないがら買い出じて医者行くのだ…ゴホッッゴホッ」
「鬼の霍乱って……ああっ、熱高いじゃない」
　自分で言うか、である。だが、確かに後木はいつも元気で風邪など引きそうにないイメージだ。　
「まゆぢゃんゼンゼー、今日は特製ドリンクないのだ～？　貰えたら元気になるがと思っだのだ～」
　ぐずぐずと鼻を鳴らしながら、まゆ先生のジャージの裾をひっぱり、後木が強請る。
「ごめんなさい、さすがに授業中は用意してないのよ……」
「う～残念なのだ……」
　けほっ、と咳をして後木がしょんぼりする。
「ちゃんと病院に行くのよ？」
　なでなで、とまゆ先生が優しく頭を撫でるとこっくり頷く。
「うう……ぜっかく早退でゼンパイたちの授業見られるヂャンスだったの゛に～ゲホッゲホ」
　はたしてそれはチャンスと言うのだろうか。
　心配そうなまゆ先生の眼差しに送り出されて、ふらふらと校門に向かう。
「あー、竜ぢゃんゼンパイ～、風邪で今日明日部活休むのだみんなに宜しぐなのだ～」
　通りかかったペナルティ中の冴木達にひらひらと手をふって挨拶をする。
「大丈夫か？　ちゃんと休んで元気になれよ！」
「後木ちゃん、きをつけてなー」
　冴木と桐野が答えて手を振る。
「ありがどうらのだー、ごほっげほっ」
　直上の先輩である冴木に挨拶できて、ほっとすると、後木はへにゃりと笑って、精一杯、息を吸い込む。
「武道ちゃんセンパイ、まーぢゃんゼンパイ、もっぢゃんゼンパイも頑張れー、ゲホホッ、みんなファイトなろだー」
　いや、お前が頑張れよ、と思いながらも、声が届いた先輩方が苦笑と共に手を振る。
「気をつけろよー」
「早く元気になって下さいねー」
「またなー」
　などなど、諸先輩方の暖かい応援を胸に、生存をかけた後木の冒険はまだまだ続く！
　