授業風景～２年体育科の場合～｜リアクション

授業風景～２年体育科の場合～

　ぴぴー！
「集合ー！！」
　まゆ先生のホイッスルと掛け声に、白熱した練習に夢中になっていた生徒たちがわらわらと集まってくる。
「うん、皆ちゃんと身体温まったわね」
　もちろん、と皆でよいこのお返事がそろう。
「よしよし、ペナルティ組みもサボらなかったみたいね」
「まゆ先生への愛をサボるなんてありえませんっ！　だから先生、俺ｔ」
「じゃぁ、待ちに待った紅白試合するからねー」
　さくっとプロポーズをスルーしたまゆ先生の宣言に、わっと生徒達が歓声を上げる。
　賑やかな声に冴木の声は哀れかき消されてしまったのだった。
「じゃぁ、ビブス配るからねー。ちなみにチーム分けは先生が独断と偏見で決めました！」
　なにそれー、と笑いながらビブスを受け取っていく。どうやら言うほど不満に感じている生徒は居ないようだ。
　一人を除いては。
「先生、僕には？」
　ビブスの配られなかった久坂がじとっとした目でまゆ先生を見つめる。
「日和君は見学です」
　笑顔でにっこり見上げるまゆ先生。その背後に雪の女王もかくや、という吹雪の幻影を見て、久坂が思わず口をつぐむ。
「無理しちゃダメって、言ったわよね？」
「……はい」
「日和君は見学よね？」
「…………」
「見学よね？」
「………………はい」
　有無を言わさぬ迫力に、久坂はしぶしぶ肯いた。
「我々の！業界では！　ご褒美です！！　まゆ先生、俺にもその氷のほほえびっ」
　奇声を上げて突っ込んできた冴木を出席簿を盾にして撃退するまゆ先生。
「あはは、冴木君元気だねー、負けないぞー」
　赤いビブスを着た佐々が楽しそうに笑う。着眼点が少々ずれている気もするが、まぁご愛嬌だろう。
「はぁ……まぁ、持久力とメンタルには期待できそうだがな」
　白いビブスに袖を通した楪が、同じく白いビブスに頬擦りして喜ぶ冴木のへこたれなさをそう評す。
　まぁ、振られ倒した挙句告白を遮って総スルーされても、めげないどころか勢いが増す冴木は確かに心身ともにタフだろう。
「楪ちゃん、負けないからねー」
　ぶんぶん手を振って自チームのコートに駆けて行く佐々に楪も手を振り返す。
「ふっ……まぁ、そうたやすくは負けないぞ」
　勝敗には拘らないが、これも鍛錬の一つ。そうなれば無様は曝せない。自然、気合も入ろうというものだ。
「はははっ！　陸を泳ぐがごとくドリブルする選手に！　俺はなる！」
　白いビブスを装備した志波が胸を張って宣言する様子に、楪がため息をつく。
「やれやれ、賑やかな事だ」
　相手チームも味方チームもムードメーカーには事欠かない。
　もっとも、体育科に所属する面々の多くは賑やかなお祭り人間だ。
　肩をすくめつつ、楪は自チームのコートに駆けて行った。
「お前、眼鏡大丈夫なん？　落としたりしなやー」
　志波と同じく、白いビブスを着けた服部に肩を叩かれる。
「あ、これ伊達なんで……げ、眼鏡ケース忘れた！」
　あっちゃー、と志波が天を仰ぐ。
「あらあら、災難やねぇ」
「んー……そうだ！」
　心配そうな服部の視線を受けて、志波がにっこり笑うとまゆ先生に駆け寄った。　
「まゆセンセー！！」
「わっ」
　まゆ先生に突撃すると、自分の伊達眼鏡を強引にかける志波。
「授業が終わるまでそれつけててくださぁい☆　凄く大人っぽい感じで新鮮っすよ！」
　言うだけ言うと、志波は服部と共にコートに走っていってしまう。
「もうっ、なんなのよー！　大人っぽいって私は立派な大人よー！！」
　ぷんぷんしつつも、大人っぽい、の言葉にちょっぴり頬が緩んでいるのを、久坂は見逃さなかった。　

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