ぴぴー！
　まゆちゃん先生のホイッスルが高く響く。
　待ちに待った試合形式の始まりだ。
「ディフェンスの心配はいらねぇ、ガンガン攻めろ！」
「どんな攻撃も必ず防ぐ！　まずはここを止めるぞ！」
　案の定というか、本人の希望と全員の推薦で各チームのゴールキーパーには、ナイト・レイヴンと内藤 武諭が着いた。
「うっへぇ……向こうチームに武道ちゃんいるし……」
　こーれは厳しいんじゃないかな、と宇佐見が嫌そうに口をへの字に曲げる。
　まゆ先生の独断と偏見により、

　・紅チーム
　宇佐見 望月・佐々 寿美礼・ティナ・フォルトゥス・桐野 正也・内藤 武諭　（+モブの皆様）
　・白チーム
　志波 武道・冴木 竜司・楪 櫻・服部 剛・ナイト・レイヴン（+モブの皆様）

　というチーム分けになっていた。

　熾烈なジャンンケン争いの結果、白チームからのキックオフ。

「ま、取り合えずボール取ろうか」
　ぽんっ、と桐野に肩を叩かれて、宇佐見が苦笑する。
　冴木と志波のツートップが走り出したのを確認すると、マークに着くべく動き出す。
「ＨＡＨＡＨＡ！　俺の華麗なドリブル捌きを！　ご覧あれぇ」
「球技大会での借りを今返す！　ガンガンいくぜー！」
　ノリノリの志波と球技大会で活躍できなかった鬱憤を晴らすように、やる気に満ちた冴木。
　紅チームのマークをかわし、破竹の勢いで攻め上がる！
「ちょーっと、止まろうか」
　ボールをキープし続ける志波の前に宇佐見が立ちふさがる。
「おおーっと、望月君！　しかしこの俺の勢いはぶしっ」
　軸足を入れ替えようとした瞬間、志波は派手に転倒した。うっかりボールを踏みつけてひっくり返ったのだ。
「えーと……貰うな？」
　思わず断りを入れて、へにゃへにゃと転がってきたボールを保持すると、宇佐見は味方にパスを出す。
「っと……」
　ぽんっ、と胸でボールをトラップしたのはティナ。パスを出した宇佐見は志波を助け起こしている。
　さて、どうしようか、とグラウンドを見渡せば、志波と共に一番攻め上がっていた冴木がこちらに向かってきていた。
「返してもらうぜー！」
　鋭いスライディングで襲い掛かってくる、が。
「まぁ、そうくるわよね」
　ぽんっ、と足の甲にボールを引っ掛けて蹴り上げると、ボールは長身のティナの頭上へ舞い上がった。
「へ？」
　スライディングが不発に終わった冴木がきょとんとする。
「これでも問題ないわよね？」
　ぽん、ぽん、と実に安定したヘディングをしながらティナがコートを進む。
「フォルトゥスちゃんすごいね！」
　佐々が嬉しそうに手を叩きながら並走する。
「どいひー！」　
　冴木が悔しそうにティナを指差し地団駄を踏む。
「なるほど。長身を生かした作戦か。理にかなっているな」
「やー、感心してる場合とちゃいますやん？」
　まさかのティナの行動に白チームは騒然となる。
「落ち着いて進路を塞げ！　あのままではゴールはできない！　ボールがこぼれたら直ぐに拾うぞ」
　ディフェンスラインから楪が冷静に指示を飛ばす。
　その指示にチームメイトは落ち着きを取り戻し、パスコースを塞ぐようにティナを遠巻きにマークする。
「……さて」
　敵チームの動きを見て、どうしようか、とティナが思考する。
　敵チームはティナを包囲するように左サイドによった布陣を形成しつつある。囲まれてしまっては機動力に欠けるこの方法では突破は難しい。
　敵のマークを許さずと、味方も前線を押し上げて相手コートを駆ける。
「ティナちゃん！」
　後方から響く佐々の声に、ティナがにやりと笑う。ヘディングで保持していたボールを上体をそらし太ももへと落とす。
「任せた」
　器用にトラップすると、そのままバックパス。
「任せて！」
　佐々が元気良く返事をしてドリブルで走り出す。ティナに集まっていたマークが佐々にそのままシフトしようとする、が。
「でも一人じゃ難しいもんね！　お願いしまーす！」
　にっこり笑った佐々が鋭いロングパスを放つ。
「ほいきたー！」
　逆サイドを走っていた桐野がそのパスをきっちり受け取る。
「攻めあがれ！　先取点取れるぞ！」
　ゴールを守る内藤が、声を張り上げて味方チームを鼓舞すれば、ディフェンダーも相手コートへと駆けて行く。
　チーム一丸となっての激しい攻撃だ。
「ちょ、これあきまへんて！」
　素早いパスワークで攻められ、服部が悲鳴を上げる。ナイトはいつでも対処できるよう、鋭い視線でボールを追い続けている。
「志波！」
　ゴール前を守る楪が声を上げる。
「ディフェンスは良いから、相手コートに攻めあがれ！」
「へ？　……了解！」
　一瞬きょとんとするが、意味を理解するとにやりと笑ってマークを解き、真っ直ぐに紅チームのコートへと走る志波。　
「先取点、もらったぁー！」
　桐野からのセンタリングで宇佐見がシュートを放つ。
「甘いっ！」
　が、鉄壁のガードを誇るナイトには通じない。
「走れ！」
　楪の鋭い指示で白チームが走り出す。
「フェイントなしで、ゴールできると思うなよ？　……カウンターだ！」
　ナイトの鋭いキックでボールが高々と舞い上がる。
「まずいっ、戻れ！」
　ティナがはっとして叫ぶが遅い。
「ＨＡＨＡＨＡＨＡ！　止めてみなさぁ～い！」
　全員で攻めあがった紅チームのコートには、ボールを受け取った志波を邪魔するものが居ない。
「え、オフサイドじゃ」
　ざわつくチームメイトにティナが叫ぶ。
「ハーフラインを全員が超えてしまっているっ、オフサイドにならない！」
　事態を把握した紅チームが大慌てで戻る。が、間に合わない。
「止めるっ！」
　決意に満ちた瞳を輝かせ、内藤が構える。
「やだこわーい、服部先輩助けて～」
　きゃるんっとおどけた志波が右サイドを駆け上がってきた服部にパスを出す。
「よっしゃ、剛さんにまかせときっ」
　全身を、バネを使うように、インステップキックで鋭くシュートを打ち込む！
「くっ」
　右上隅を狙って鋭く打ち込まれたシュートに内藤が飛び上がるが、僅かに届かない。
「よっしゃっ……て、え、あーっ！」
　ゴールを確信した瞬間、鋭いシュートはバーに嫌われ跳ね返ってきた。それも服部の顔面に。
「ぐっ……ふふ、ふふふふふ」
　べぶしっ、としか言い様のない音を立てて倒れた服部が不気味に笑う。
「幼馴染の真似したろ、思ったのに……くくっ、しかしざんねんやなぁ？」
　ゆらり、と起き上がるとびしっと、内藤に指を突きつける。
「笑いの神が降りた時点で、この勝負もろたで！　何のかって？　知るかだぁほ！　ここまできたら楽しんだモン勝ちに決まっとるやろー！！　覚えとき！！」
　言うだけ言って服部は白チームのコートへと戻っていく。
「誰も、何も言っていないが……」
　ころころと転がったボールは、困惑しつつもきっちり内藤が保持していた。