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- 00月00日生 00歳
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Thank You for Loving Me
おはようございます、と言った彼女の笑顔は、これまでと特に変わっているようには見えなかった。
いやむしろ、これまでよりさわやかなくらい……かも。
「早いご出勤ですね」
ガラスケースを乾いた布でから拭きしながら三佐倉 千絵は言う。
「ああ、うん。千絵ちゃんこそ」
まだ開店までぜんぜん余裕あるよね、と七枷 陣は返した。エプロンを巻く。
ここは『クラン＝G』、寝子島最大のゲームショップである。といっても昨今『ゲーム』と言われたいていの人がまっさきに思い浮かべるコンピュータゲームの店ではない。ゲームソフトはもちろんのこと本体だって売ってない。それを言うならパソコンの取り扱いもだ。
この店でいうゲームとは、アナログゲームつまり電源をつながぬ昔ながらのゲームを指す。ルーレット花札将棋といったものももちろんあるが、古今東西のボードゲーム、独特の厚みのある箱がぎっしりと売られているのだ。貴重品、無名だが新進気鋭のもの、ボードゲーム大国ドイツ、アメリカ、フランスものを中心に、世界のゲームがずらりである。日本版が出ていないので店舗自家製の翻訳がつけられたものも少なくない。もちろん国産品のあつかいも良好だ。一部でしか知られていない同人ボードゲームの扱いすらある。
それにカードゲームだ。これもトランプにとどまらない。特定の世界観特定のルールに沿って印刷されたキャラクターカード、すなわちトレーディングカードゲームも大量に用意されている。これまたレア品プレミア品、美術価値が高いものも数知れなかった。一枚二枚ないし数枚入りのパックのみならず、カードがぎっしりつまったコンクリブロック大の箱ごと買うという、大人買いの猛者への備えもばっちりである。
さらにプラモデルの品揃えも豊富だ。メーカーとの強いパイプがあるため、最新のロボットプラモはすぐ入荷する。古いモデルであろうと在庫は豊富、日本の城、ゆるキャラのプラモの箱も目を楽しませるだろう。戦車や航空機、帆船といった上級者向け商品もある。
プラモ製作が不得手でも大丈夫。フィギュアもたくさん用意されているからだ。アニメ美少女系がやはり数多いが、硬派な戦国武将、アメリカンコミックスのヒーローフィギュアも山のようにある。箱（ブリスター）のまま飾っておきたい派も、箱から出してガンガンに遊びたい派も満足すること請け合いだ。
それのみの専門店には負けるかもしれないが、モデルガンやサバゲー用品の一角も存在感をはなっていた。カプギアの在庫もあなどれないし、関連書籍も絶版本を含む多数だ。TRPGには近ごろ力を入れているとかで、海外版をふくむルールブック類はやけに充実している。
これだけ品揃えがぎっしりなのはこの店が、元ファミレスだった建物を居抜きで買い取り、まるごとゲーム店に改造したという経緯があるからだ。店はそのままインターネット通販の倉庫をかねており、全国はもちろん全世界から注文が集まってくる。ほんの二年年前まで店は雑居ビルの一角だったことを考えれば飛躍的な進化であろう。
さて、休日の昼間ともなればゲーマー、モデラーらが押し寄せるこの店『クラン＝G』もまだ開店前である。電灯こそついたものの、広い店内だけにやけに寒々しい。
「どうしたんですか七枷さん、こんなに早くおいでになって」
早出の残業代はつけませんよと千絵は軽口をたたいた。
「わかってるよ。なんか、つい、ね。千絵ちゃんこそ、どうして？」
「私？ 私はいつだってこれくらいの時間に来てますよ？」
「そうだっけ？」陣は笑った。「やっぱ早すぎると思うよ」
「ばれては仕方ないですねえ」
ここまでは千絵も笑っていたのだが、急に表情が変わった。
「……よく眠れなくて。昨晩」
「あ……そうなんだ」
「もうお聞き及びと思いますが、昨日店に『Guild of Ages（ギルド・オブ・エイジズ）』の人が来たそうです。アメリカのホビーメーカー、店を買いたいって言ってる会社です」
「うん。聞いたよ。『TOS』（※Tales Of the Sky。トレーディングカードであり、最近は家庭用ゲーム機版のゲーム化にも成功した）のフィギュアを世界で売ってる会社に注目されるなんて、なかなかじゃない」
「私はまだ直接会ったことはないです。でも、その人は今日も来るそうです」
「遭遇は避けられないってことか……」
「お父さんは、『クラン＝G』をギズ社に売却するかどうか私に決めるように言いました」
「だったよね」
言葉がとぎれた。千絵はまた開店作業に戻る。
互いに十分承知の話のはずだ。なのに千絵があらためて言うのは、売るにせよ売らないにせよ、決定を下したためだろうか。
あのオッサン、なんつー重い決定を中学生の娘にまかせてんだよ。
すげーギャンブラーだよなあとも陣は思う。
まあ、三佐倉店長ならありそうな話だよなあ。
杏平という人間は、普段はいい加減な言動でふらふらしているだけのニアリー不審者だが、ビジネスに関してはしばしば大胆な勝負に出て、そのほとんどすべてで負けたことがない。今回は『売却するかどうかは娘に任せるのが一番』と直感したのだろう。
乾いた下唇を前歯で噛み、湿らせてから陣は千絵の背中に呼びかけた。
「それで……店、どうすることに決めたのかな、千絵ちゃんは」
いやむしろ、これまでよりさわやかなくらい……かも。
「早いご出勤ですね」
ガラスケースを乾いた布でから拭きしながら三佐倉 千絵は言う。
「ああ、うん。千絵ちゃんこそ」
まだ開店までぜんぜん余裕あるよね、と七枷 陣は返した。エプロンを巻く。
ここは『クラン＝G』、寝子島最大のゲームショップである。といっても昨今『ゲーム』と言われたいていの人がまっさきに思い浮かべるコンピュータゲームの店ではない。ゲームソフトはもちろんのこと本体だって売ってない。それを言うならパソコンの取り扱いもだ。
この店でいうゲームとは、アナログゲームつまり電源をつながぬ昔ながらのゲームを指す。ルーレット花札将棋といったものももちろんあるが、古今東西のボードゲーム、独特の厚みのある箱がぎっしりと売られているのだ。貴重品、無名だが新進気鋭のもの、ボードゲーム大国ドイツ、アメリカ、フランスものを中心に、世界のゲームがずらりである。日本版が出ていないので店舗自家製の翻訳がつけられたものも少なくない。もちろん国産品のあつかいも良好だ。一部でしか知られていない同人ボードゲームの扱いすらある。
それにカードゲームだ。これもトランプにとどまらない。特定の世界観特定のルールに沿って印刷されたキャラクターカード、すなわちトレーディングカードゲームも大量に用意されている。これまたレア品プレミア品、美術価値が高いものも数知れなかった。一枚二枚ないし数枚入りのパックのみならず、カードがぎっしりつまったコンクリブロック大の箱ごと買うという、大人買いの猛者への備えもばっちりである。
さらにプラモデルの品揃えも豊富だ。メーカーとの強いパイプがあるため、最新のロボットプラモはすぐ入荷する。古いモデルであろうと在庫は豊富、日本の城、ゆるキャラのプラモの箱も目を楽しませるだろう。戦車や航空機、帆船といった上級者向け商品もある。
プラモ製作が不得手でも大丈夫。フィギュアもたくさん用意されているからだ。アニメ美少女系がやはり数多いが、硬派な戦国武将、アメリカンコミックスのヒーローフィギュアも山のようにある。箱（ブリスター）のまま飾っておきたい派も、箱から出してガンガンに遊びたい派も満足すること請け合いだ。
それのみの専門店には負けるかもしれないが、モデルガンやサバゲー用品の一角も存在感をはなっていた。カプギアの在庫もあなどれないし、関連書籍も絶版本を含む多数だ。TRPGには近ごろ力を入れているとかで、海外版をふくむルールブック類はやけに充実している。
これだけ品揃えがぎっしりなのはこの店が、元ファミレスだった建物を居抜きで買い取り、まるごとゲーム店に改造したという経緯があるからだ。店はそのままインターネット通販の倉庫をかねており、全国はもちろん全世界から注文が集まってくる。ほんの二年年前まで店は雑居ビルの一角だったことを考えれば飛躍的な進化であろう。
さて、休日の昼間ともなればゲーマー、モデラーらが押し寄せるこの店『クラン＝G』もまだ開店前である。電灯こそついたものの、広い店内だけにやけに寒々しい。
「どうしたんですか七枷さん、こんなに早くおいでになって」
早出の残業代はつけませんよと千絵は軽口をたたいた。
「わかってるよ。なんか、つい、ね。千絵ちゃんこそ、どうして？」
「私？ 私はいつだってこれくらいの時間に来てますよ？」
「そうだっけ？」陣は笑った。「やっぱ早すぎると思うよ」
「ばれては仕方ないですねえ」
ここまでは千絵も笑っていたのだが、急に表情が変わった。
「……よく眠れなくて。昨晩」
「あ……そうなんだ」
「もうお聞き及びと思いますが、昨日店に『Guild of Ages（ギルド・オブ・エイジズ）』の人が来たそうです。アメリカのホビーメーカー、店を買いたいって言ってる会社です」
「うん。聞いたよ。『TOS』（※Tales Of the Sky。トレーディングカードであり、最近は家庭用ゲーム機版のゲーム化にも成功した）のフィギュアを世界で売ってる会社に注目されるなんて、なかなかじゃない」
「私はまだ直接会ったことはないです。でも、その人は今日も来るそうです」
「遭遇は避けられないってことか……」
「お父さんは、『クラン＝G』をギズ社に売却するかどうか私に決めるように言いました」
「だったよね」
言葉がとぎれた。千絵はまた開店作業に戻る。
互いに十分承知の話のはずだ。なのに千絵があらためて言うのは、売るにせよ売らないにせよ、決定を下したためだろうか。
あのオッサン、なんつー重い決定を中学生の娘にまかせてんだよ。
すげーギャンブラーだよなあとも陣は思う。
まあ、三佐倉店長ならありそうな話だよなあ。
杏平という人間は、普段はいい加減な言動でふらふらしているだけのニアリー不審者だが、ビジネスに関してはしばしば大胆な勝負に出て、そのほとんどすべてで負けたことがない。今回は『売却するかどうかは娘に任せるのが一番』と直感したのだろう。
乾いた下唇を前歯で噛み、湿らせてから陣は千絵の背中に呼びかけた。
「それで……店、どうすることに決めたのかな、千絵ちゃんは」
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2023年09月13日
- 参加申し込みの期限
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- 2023年09月20日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2023年09月20日 11時00分
