【トモダチの輪！】

　今日も今日とて家づくり。仕込みはコツコツ、仕上げはド派手に大輪の花を咲かすのがタビガラス（プレイヤー：旅鴉 月詠）の流儀である。
　ペットランを併設したキャンプサイト、兼野外フェス会場というごった煮のようなハウジングエリアになってきたが、訪れる客には好評だ。目的あってやってくる者もあれば、ふらりとやってきてとりあえずウェルカムドリンクを飲み、お布施箱に少なからずの報酬を捧げ、のんびりと過ごして英気を養い次のクエストへ出かけてゆく者もいる。様々な楽しみが詰まったタビガラス渾身の庭は好評で、プレイヤーの間でも話題が広がりつつあるのだった。
「さて。ふむ？」
　そんな彼女の続く試みは、先ごろ実装されたトレーディングカードシステム、および対戦ゲーム『Chemitoria（ケミトリア）』の交流・対戦卓を設置することだ。まだ本格的に取り組んでいる者も多くはないようだが、これから盛り上がるであろうと目をつけさっそく取り入れようというあたり、タビガラスの先見の明であろう。
　現在カードゲーム卓は、フェス会場へフォーチューンテラー用の占い卓と並べて置いてある。フェスが未開催の時は客席椅子や机がまるっと浮いてしまうためだが、正直これはあまりしっくりこない。音楽を聴きながらというのもオツではあるが、どちらかといえば集中が削がれるデメリットが大きいだろう。かといってフェスの予定が入るたびに移動するのも無駄が多いし、タビガラスの美意識にも合致しないのだった。
「やはりここは、Chemitoria用に新たな建築が必要か」
　そんなわけでタビガラスのエリアへ、新規施設を用意することにした。幸いお布施箱に放り込まれる寄付の品々には、建材の類も多く含まれている。あえて資材の調達へ出なくともなんとかなりそうで、ありがたいことである。
「ヒヨコロボにセキトリくん、必要な物資を運んでくれたまえよ」
　頼りになるクラフトマスター製ロボットに、先日のデゲイコで見事進化を果たしたペットのセキトリヒヨコもいるから、戦闘力や身体能力に乏しいクラフターでも運搬力には困らない。使用する素材も木材が主だから、石や鉄を加工するより楽だし多くの物資を一度に運ぶこともできた。
　まずは三角と四角の土台を敷きつめ、円形を形作る。ありあわせの素材でいかに滑らかな曲線を描くかは、クラフターの腕の見せ所だ。続いて壁を立て、窓をはめこんでゆく。窓はフェス会場に面しているから、演奏に耳を傾けながらトレードの交渉に臨むこともできるし、いざ対戦となれば窓を閉めて集中力を高めることもできるだろう。
　そうして瞬く間に頭の中のイメージを形にしていくと、ちょっとしたコテージのようなものができ上がった。ひとまず出来は悪くない。さっそく内部にゲーム卓を置いてみて、タビガラスはふむ、と思案。
「あまりにもコテージで、ＴＣＧの対戦場には見えんか。なにか装飾でもしてみるかね。闘争欲をかきたてつつ、知の殿堂としてふさわしき、そう彫像などを調達するか……いやここはクラフターらしく自作して」
「……おおい！　タビガラスよい！」
　むむむとアイディアをこねくりまわしていたら、駆け込んでくる者があった。常連客、白髪おかっぱ頭の女侍、シロヘビだった。
「やあシロヘビ嬢。あいにくとハウジングエリアは閉店だよ、改装中でね。しかし寄付は受け付けているから、よければあちらの箱へポーションや料理の素材でも建材でも適当に放り込んでくれれば」
「いや呑気にモノづくりに精を出しとる場合じゃないぞ！　表の騒ぎに気付かんのか！？」
「ふむ、そういえば小一時間ほどこもりっぱなしだった。いかんね、芸術家たるもの外へも繰り出してほどよく刺激を受けねば」
「ええい、戯言言うとる前に、見てみい！」
　と強引にエリアの外へ連れ出されてみれば、シロヘビの慌てようにも納得の光景が広がっていた。ぽむ、と手を打つタビガラス。
「おお、ワールドクエストの。彼らは……そう、ヴォーゲンリッターといったかな。破壊工作に精が出るようで」
「阿呆！　このままではお前さんのハウジングエリアも弧の騎士団の進行に呑みこまれて、灰燼と帰すぞ！」
　急なことだが、大ピンチなのだった。



　ユズハとウォルターが駆け付けた時、場は大乱戦の様相を呈していた。
「うわぁ、大変なことになってる！」
「おや。あれなるは、我が寝子高の有名人じゃあないか？」
　タビガラスのアバターに学内でのエキセントリックな言動やらアーティスティックな成果物やらを思い起こされたか、ウォルターはなにやら首肯している。
　ワールドクエストがリキッド大陸の全域にて発生中だ。前回はゴブリンの襲撃だったが、今回は＜弧の騎士団（ヴォーゲンリッター）＞と名乗る謎の戦闘集団が襲来する。はた目には騎士とは名ばかりの烏合の衆に見えるが、ひとたび追い詰められれば、
「わ、変身した！？」
　まるで熊のような魔物の姿へと変じ、強靭な肉体で重戦車のごとく暴れ回るのだ。
「ワット、助けよう！　いつものコンビネーションでいくよ！」
「ＯＫ、あの手だねぇ」
　阿吽の呼吸で飛び込み参戦するふたりに、タビガラスとその背中を護るシロヘビがうなずく。
「こやつらできるぞ！　油断すまいぞ！」
「助っ人は大歓迎だ。とはいえ、ここは私も働くとするか……ヴォーゲンリッターくん、キミらいい身体してるね。倒したらさぞよい資源やらアイテムやら落とすのだろうね」
「相変わらず目の付け所が違うのうお主は、まったくもう！！」
　ヒヨコロボマッチョが盾になり、セキトリヒヨコがハッケヨイと張り手をぶちかましシロヘビが刀を振るう後ろから、爆発ポーションを投げ込んだ。
「やっほー、ここがカードゲーム場のあるとこだね。遊びに来たよ～……ってバトル中！？」
　やってくるなり飛び上がったのは、地図埋めの合間の息抜きに訪れた、マシロだった。
「すまないが、ハウジングエリアはちょっぴり閉鎖中だ。できれば不躾な客を追い払う手伝いをしてもらえると助かるのだがね」
「わ、わかったよー！　＜照らすは星の導き＞！」
　マシロが杖を振るい、味方のランダムステータスが上昇するバフ魔法を広げる。
　ヴォーゲンリッターは強力な上、統率された数で攻めてくる。まるで押し寄せる壁のようだ。シロヘビが吹き飛ばされてダウンし、ヒヨコロボが圧倒され押し込まれそうなところへ、
「おっしゃあ、日頃の恩を返すぜ！　タビガラスさん！」
「ちょっと、ひとりで突っ走らないでよ！？」
　こちらも常連、アルターとエリンも駆けつけた。
　タビガラスのクラフト活動が繋いだ輪が、タビガラス自身を助けようとしている。輪は口コミでも広がり、さらなる絆が繋がれてゆく。
「苦労してるみたいだな。旅烏」
　迫るヴォーゲンリッターを一刀のもとに切り伏せ、タビガラスを救った剣士もまた、その輪へ巻き込まれたらしい。
「おお、そのアバターはもしかして……ムッツルギ？」
「カタナと呼んでくれ、頼むから。縁あって助太刀するぜ！」
　玉楼からやってきたカタナは加速し踏み込み、抜き放つ刃が熊のごとき巨体を一刀両断。
　その刹那、タビガラスの脳裏に稲妻走る。
「うむ。ひらめいた。全てを蹂躙せんと迫る悪の騎士団と、迎え撃つ勇壮な冒険者たちがたがいにカードを携えにらみ合う像はどうだ。知の真髄をぶつけ合う頭脳の格闘技を象徴するに、これほどふさわしいテーマはあるまいて」
「「「「「いいからあんたも戦って！？」」」」」
　その後、ワールドクエスト遂行による特別報酬および仲間たちのカンパも大いに集まり、タビガラスのハウジングエリアはさらなる充実を見たという。

「いつでも遊びに来たまえよ」