一陽来福。冬至の日には、カボチャを食べて｜リアクション

一陽来福。冬至の日には、カボチャを食べて

　旧市街にある喫茶店『novitas』は、クラゲのアクアリウムがある素敵なお店だ。
　流れているのは潮騒の音とかすかな音楽。奥のスキップフロアにはたくさん本棚が並んでいて、ちょっとした小図書館並の蔵書があるのも魅力である。
「修くん、ここ好きでしょ？」
「ああ、好みだ」
　七夜あおいと連れだって来店した八神修は、目を輝かせて店内を見渡す。
　一陽来福フェアに合わせてか、カボチャの風船がクラゲみたいに吊るされている。カボチャ風船は空気の流れでふわふわとゆれて、まるでクラゲとダンスをしているかのようだ。
「実はおなかをすかせてきたんだ」
　案内された席で注文して、歓談して待っていると、修とあおいの前に期間限定のカボチャメニューが運ばれて来た。
「俺はカボチャと冬野菜のカレーにしたよ。あおいは？」
「私はカボチャのクリームパスタだよ。おうちでなかなか作れなさそうだし」
　付け合わせのポタージュもカボチャ。サラダの上にも薄く揚げたカボチャが添えられていて、目にも楽しいカボチャ尽くしである。
「南瓜で一杯だね」
「栄養満点で元気になりそう！」
　修もあおいも張り切って食べ始める。かぼちゃのほくほくとした歯触りと、優しい甘さ。料理そのものの温かさもあいまって、心も体もぽかぽかだ。
「あおいは南瓜料理では何が好き？」
「ぱっと思いつくのは煮物系かな。甘く煮付けたシンプルなのもおいしいけれど、鶏ひき肉とあわせたそぼろ煮もいいよね。寮母さんがときどき夕飯で出してくれて、美味しいんだ」
「家庭の味って感じがするね。俺はコロッケ、シンプルに焼いて塩ってのも好きだ」
「焼いて塩もいいよね」
「あおいは南瓜料理で得意なのはある？」
「それこそ、焼いて塩は、お弁当にときどき入れてたよ。手の込んだのはほら、難しいから」
　あおいはすこし上目遣いで、分かるよね、と言わんばかりに笑う。あまり料理が得意ではないあおいは、修の料理特訓を受けたりすることもあったが、まだまだ道半ば。そこから、カボチャを切る時の力加減を間違って、カボチャを吹っ飛ばしてしまったなんて笑い話をしていたら、最後に頼んでいたスイーツが来た。
「種類、色々にしたよ。あおいとシェアしようと思って」
「いいね、どれも美味しそう！」
　ほくほく顔で楽しむあおいと修であった。

◇

　また別の席には、倉前七瀬とウォルター・Bがいた。
　こういうのは一人より誰かと一緒の方が楽しめる、と七瀬がウォルターに声をかけたのである。
　ウォルターが快諾してくれたのは勿論嬉しかったが、今日の嬉しさはもう一つある。
　本がたくさんあるお店！　本好きな七瀬には嬉しいことだった。聞けば物腰柔らかナイスミドルな店長は、昔、図書館司書になりたかったのだとか。そんな話を聞いたら七瀬としてはこの店が好きになってしまう。もっとも、そういった感情が、表情や感情の表層にあまり出てこないのが七瀬なのだけれど。

「僕はカボチャのカレーとカボチャのパンチにします。ウォルターさんは何にしますか？」
「日本ってカレーに何でもいれるよねぇ。カレーに対する節操のなさは世界一なんじゃないかなぁ。知ってる？　僕の母国イギリスは、カレー粉誕生の国って言われてるんだよ」
「そうなんですか？」
「インドを植民地にしていた頃にカレー文化が入ってきたからねぇ。けっこう本場のインド料理店も多いんだよ。植民地の歴史がどうか、ってのはちょっとここでは置いておくけど」
　あとで興味があったら勉強してみて、とウォルターは片目を瞑って見せる。
「そんなわけで、日本文化の勉強のために僕もカレーにしてみるよぉ」
　