一陽来福。冬至の日には、カボチャを食べて｜リアクション

一陽来福。冬至の日には、カボチャを食べて

　このカボチャ風呂では、商店街の各店舗から商品の出張販売もしてくれるとのことで、綾花はソフトドリンクをオーダーした。
「先生はアルコールですか？」
「いや、今日は折角だから喫茶店『novitas』の特別メニュー、カボチャパンチにしよう。ノンアルコールなら綾辻さんにも半分おすそ分けできるしね」
　届いたドリンクを片手に空を見上げれば、立ち上る湯気の向こうに星と月が瞬いていて露天風呂の風情だ。
「綺麗ですね」
「本当に。ここが参道商店街のはじっこだということを忘れてしまいそうだよ。そう言えば冬至カボチャはもう食べた？」
「はい。夕食にかぼちゃの煮物を作って食べたのでここで柚子湯に入れて良かったです」
「季節の行事をちゃんとしていてえらいね」
「日本人の心を大切にしたいですから。古くから続けられてきたことって理由があるでしょう？」
「そうだね。冬至にカボチャを食べるのは、栄養豊富なカボチャを食べて厳しい冬を乗り越えるためという説もある。人間の知恵だよね」
「運が上昇する転機となる冬至の日には、運を呼ぶために『ん』のつく食べ物を食べるといい、という説もあるそうですよ。人参とかレンコンとか」
「そうか、カボチャは南瓜（なんきん）……『ん』がつくね」
「はい。先生はカボチャ食べられましたか？」
「それが、今年は無精してしまってね」
「だったら今度煮物持って行きますね」
　ドリンクで熱を冷ましながら入っていたつもりだったが、話がはずみ、つい長風呂になっていたようだ。
　立ち上がりかけた綾花はくらりとして思わず珪に寄りかかった。
「大丈夫？」
「すみません、のぼせて立ち眩みが」
　のぼせた？　そうだろうか。
　……ドキドキする。珪の顔がすぐ近くにある。
　綾花の頬が上気する。
　五時のチャイムが鳴った。このカボチャ風呂や露店など外の店はそろそろ店じまいだ。
　綾花は名残惜しくも珪から離れた。
「そろそろ……上がりましょうか。もう一か所、先生と寄りたいところがあるんです」

　綾花が寄りたかったもう一つの場所は、表通りに出店していた雑貨店『memoria』の露店だった。
　赤毛の青年が広げた商品を仕舞い始めている。
「終わりがけにすみません」
　綾花は青年に声をかける。
「『カボチャ猫フィギュア』ください」
　何が出るかわからないランダムの商品を、先生と自分とで一つずつ買って開けてみる。
「私は……あら？　ハート形のカボチャを抱えてる猫？　表書きにはないけれど……」
「あ、それ、シークレットです」
　赤毛の青年が少しぶっきらぼうな口調で教えてくれた。
「すごいね。僕のは……おや？」
　自分の箱を開けた珪は、幾度も瞬きして、箱の中のフィギュアを取り出した。
「……僕も、シークレットだったよ」
「こんなことあるんですね！」
「ふたりともシークレットを引くなんてね。一年分の運を使ってしまったかな」
「大丈夫です。今年はもう、あとちょっとで終わりですから」
　なんて素敵なサプライズ。
「今日は楽しかったです。先生はどうでしたか？」
「楽しかったよ。シークレットも当てたしね」
「わたしも嬉しいです」
　好きな人と一緒なら、本当はいつだって楽しい。
　綾花の頬は、オレンジのカボチャよりずっと赤く染まっていた。

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