一陽来福。冬至の日には、カボチャを食べて｜リアクション

一陽来福。冬至の日には、カボチャを食べて

　修とあおいも、『novitas』をあとにし、腹ごなしに参道商店街を歩いている。
　修が嵌めた毛糸の手袋に気づいて、あおいはちょんちょんとその手を突いた。
「使ってくれてるんだね」
「当たり前だろう。あおいからもらったものは何だって、俺の大切な宝物だよ」
　こういうことを衒いもなく言ってのけてしまうところが修らしい。
　あおいもすこし、その感じに慣れつつある。
　しばらく歩くと、赤毛の青年が店番をする雑貨店『memoria』の露店があった。
　外でじっとしているのは寒いらしく、青年は首周りをとっぷりとマフラーで覆っている。
　修は広げられたカボチャな商品を斜めに見ながら行き過ぎかけ、やっぱり戻って足を止めた。
「あおい、『カボチャ猫フィギュア』買ってみないか」
　いいね、とあおいも露店の前にしゃがみ込む。
　せーので選んだ『カボチャ猫フィギュア』は……。

「俺は『カボチャの中から顔を出す子猫』だ」
「私は『カボチャで遊ぶ子猫たち』たち！」

　奇しくも子猫つながりだ。
「一緒に揃えるとほら、修くんちみたいじゃない？」
　あおいは修のフィギュアの隣に自分のフィギュアをくっつけて笑った。修の家には動物がたくさんいる。十匹を超える猫たちに体中登られることも、まれじゃない。瞼の裏に猫たちとのあたたかい光景が広がって、修はほっこりした。
　つい、他の商品にも目が行く。
「カボチャキーホルダーには文字入れをしてくれるのか」
　修は吟味して可愛いものを一つ選び、「磨穿鉄硯」の文字を刻んでもらってあおいに贈った。
「ま……何て読むの？」
「ませんてっけん」
「磨穿鉄硯……」
　あおいはキーホルダーに刻まれた文字をじっくりと眺めた。
「鉄の硯を磨き、穿つ。ほら、昔は硯で墨を擦っていただろう？　鉄の硯に穴が開くほど学問に励む、強い意志を持ち続け物事を達成する、という意味があるんだ」
「すごく修くんらしい。修くんの好きな言葉？」
「ああ。その言葉を胸に頑張ってた。……だから、あおいにも同じ言葉を送りたくて。あおいは頑張り屋さんだけど、ずっと頑張ると疲れる時もあるかもしれない。だけどコツコツでいい無理をしなくていい。新しい環境でもし疲れても、挫けずいられるようにと願いを込めたよ」
「ありがとう。私もなにか、修くんが頑張れるような言葉を送りたいな」
　かといって、修みたいに趣深い四字熟語はぱっとは思い浮かばないし……としばし悩んでいたあおいは、やがてひとつ頷いて、赤毛の少年に刻んでほしい言葉を耳打ちした。

『キミナラデキル』

　カボチャのキーホルダーに刻まれたのはカタカナだけのシンプルな言葉。
　それはまるで、強力なまじないだ。
　何故ならば、その言葉をくれたのがあおいだから。
　嬉しくて、絶対に叶えるしかなくて、――修の確かな自信になる。

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