一陽来福。冬至の日には、カボチャを食べて｜リアクション

一陽来福。冬至の日には、カボチャを食べて

　この一陽来福フェアの間、参道商店街の出口付近に設置された巨大カボチャのビニールプールのことを、じゅんは見落としてはいなかった。ほんのりと湯気たつ水面には、柚子と一緒にカボチャが浮かんでいる。季節柄、水温は温かく設定されており、浸かればお肌はすべすべ、という触れ込みである。
　カボチャ風呂は水着必須とのことで家に取って返したふたりが戻ってきたころには、日もずいぶん傾いて来ていた。
「じゅんは職業柄、肌の手入れは必須だものね」
「そうよ。それにあたし、さゆるよりずっとお姉さんだし」
　じゅんはゴスロリの、さゆるはコバルトブルーのパレオのついた水着に着替え、柚子の香り立つカボチャ風呂に身を浸す。
「あー……極楽極楽ぅ」
「急に草臥れた声出して……年齢、バレるわよ」
「べつに隠してないわよ」
　じゅんはふくれて、両手で掬った湯をさゆるに浴びせかけた。
　楽しそうにはしゃぐじゅんと落ち着いたさゆるを、さゆるが姉と勘違いして、ちぐはぐな姉妹、と見る人もいるだろうなとさゆるは思った。
（こんな日が来るなんてね……）
　さゆるもじゅんも、別々な道ながら凄惨な、いばらの道を裸足で歩んできたようなものだった。
　そのことについてはもう考えまいと思う。
（ふたりが出逢い、恋をして、愛するようになった。……それでいいじゃない）
　浮かぶカボチャを弾いたりして、じゅんが笑っている。
　さゆるはここでキスしたい衝動に駆られて自分を抑えた。
（失いたくない）
　愛しい人を。この時間を。

◇

　冬至だけあって日が暮れるのが早い。
　まだ四時を少し回った程度だいうのにあたりはすっかり暗くなっている。
　カボチャ風呂には、綾辻綾花と早川珪の姿があった。
　猫の足跡のついた空色の水着は綾花のお気に入りだ。胸元とスカートのフリルが可愛らしいし、なにより以前先生から「似合うね」と言ってもらえた水着である。

「かぼちゃと柚子の香りが良いですね」

　そうだね、と珪先生は気持ちよさそうにとっぷりと湯に身体を沈める。
「お肌がつるつるになりたいな。珪先生はお肌つるつるですよね」
「そうかな」
「そうですよ」
　じっと珪を見つめて指先を伸ばそうとする綾花を、珪は目で諫めた。
　そうだった。
　ここは外、参道商店街である。綾花はイチャイチャしたかったが、珪としては先生という立場上、引いておかなければいけない線もある。ゆえにそこいらを歩いているご近所さんや学校の人向けには、おや偶然ですね、あなたもカボチャ風呂に？　私もです、せっかくですからご一緒しましょうか、という体であった。とはいえ、そのために過剰な緊張感を持っているということでもなく、わりと素のまま、イベントを楽しんでいる。
「１２月も末だけれど、勉強の方はどう？　捗ってるかい？」
「ええ、頑張っています。でも肩はどうしても凝りますよね」
　その凝りが、湯のぬくさと柚子の香り、そして目にも楽しいカボチャたちに解されていく。
　綾花はうーんと気持ちよさそうに伸びをした。
「受験勉強の疲れがとれそうです」

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