一陽来福。冬至の日には、カボチャを食べて｜リアクション

一陽来福。冬至の日には、カボチャを食べて

　冬休み。
　一年で一番日が短くなる冬至の日を前後して約一週間、旧市街にある参道商店街では一陽来復ならぬ、一陽来福フェアが行われていた。
　オレンジと黒を基調とした、カボチャづくしの飾りつけで賑わう商店街の入り口に立つのは、朝鳥さゆると姫木じゅんである。さゆるとじゅんは、連れだって参道商店街へ年末に向けての買い出しに来ていた。

「ねえさゆる、どういうこと？　ハロウィンの続きやってんの？」
「『一陽来福フェア』というイベントらしいわよ、じゅん」

　一陽来福。
　聞きなれぬ単語を口の中で転がすみたいに繰り返したじゅんは、嬉々として楽しそうだった。
　彼女によると、寝子島はアニメや漫画、ラノベなどの舞台になった「聖地」がたくさんあるらしい。
　さゆるにとってはなんてことのない街歩きでも、じゅんにとっては聖地巡礼というわけだ。

　さゆるはじゅんの導きで、商店街入り口から１本路地を入った先にある雑貨店の前へと立った。
　黒鉄でできた柵に、蔦を模した黒鉄のついた張り出し窓。
　そして黒鉄と青銅の電灯が両脇に１つずつ。
　見上げれば、『memoria』との店名が打ち出された金属製の吊看板が下がっている。
「そうそう、これよ！」
　じゅんによると、お気に入りの漫画の中でこの店をモデルにした場所が登場しているのだという。
「すてきだわ。みて、さゆる。作中の雰囲気そのまま」
　じゅんがはしゃいでいると、中から黒のストールを羽織った二十代後半から三十代に差し掛かるかという年頃の女性が顔を出した。
「いらっしゃいませ。どうぞごゆっくりご覧ください。今日は表通りの方に露店も出ていますよ」
　店主であるらしい。
　魔女、と呼んでしまっては失礼に当たるだろうが、彼女からはどこか秘密の匂いがする。
　じゅんはもじもじとさゆるの袖を引く。
　聖地巡礼を目的とするじゅんとしては、露店ではなく漫画の舞台となったこの店こそ見たいものだった。
「わかったわ、入りましょ」

　雑貨店『memoria』は彼女の佇まいとも相まって、中世の、原因不明の不調を訴える人が薬草を買いに来たり少女たちが密かに恋のまじないをしてもらいに来る『魔女の家』を想起させた。
　アンティークな品が充実しているし、ワークショップも開催中のようだ。
　フェアに合わせてか、店内の飾りつけや商品もオレンジ色したカボチャのものが多い。
　じゅんはカボチャキーホルダーを手に取った。
「フェアに合わせたグッズも豊富なのね。ふふ、可愛い」
「名前や文字を彫ってくれるって」
　さゆるが読み上げたＰＯＰに『２０字以内でお好きな言葉を彫ることもできます』と書いてある。
　さゆるとじゅんはお互いを見遣った。
　思いついたことは、同じ。
　お揃いで彫ってもらったのはふたりの名前だ。
「ただのモノなのに、名前を彫っただけで強くつながった気持ちになるの、不思議ね」
　じゅんという人と出逢ってから、さゆるの人生は変わった。
　小さなキーホルダーがそのことを教えてくれた気がして、さゆるは彫った名前を指でなぞる。
　じゅんはさらに店の奥へと進んでいた。
「あ、ほら、さゆる。『カボチャ猫フィギュア』だって。手のひらサイズの猫フィギュアで、全６種類＋シークレット１種。１箱に１種類が入っていて、どれが入っているかは開けてみるまで分からない、って」
　運試しよ、とこちらもご購入。
「あたしは……カボチャの上で昼寝する猫だったわ。さゆるは？」
「カボチャ風呂に浸かる猫。気持ちよさそう」
「目を細めたまったりした表情がたまんないわね。……あ、そうだ、カボチャ風呂といえば」
　じゅんは、ぴんっと人差し指を立てていたずらっ子の顔をした。

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