AFTER THE RAIN｜リアクション

AFTER THE RAIN

　雨、あがったねとじゅんは言った。『プロムナード』では『まみ子』を演じている彼女も、さゆるの前ではつねに素だ。
　媚びるような態度を見せない。あどけない口調も演じない。
　けれどもふと見せた表情は、実年齢からすれば不相応なほどに幼いのだった。ティーンエイジャー、下手をすればローティーンに見えそうなほどに。
「行こうか」
　と言うじゅんにさゆるは折りたたみ傘を手渡す。
「予報は雨。空も暗いし、また降りだすと思うから」
「そうね」
　つくづくとさゆるを眺めてじゅんは言った。
「さゆるって、そういう格好も似合う」
「そう？」
　飾り気のないワンピースにモスグリーンのカーディガン、落ち着いた大人っぽいいでたちだ。
「うん。近所に住んでる美人のお姉さんって感じ」
「ありがとう。じゅんもかわいいよ」
　今日は比較的にゴスロリ風味はおさえているじゅんだが、やはり黒で統一しておりイメージはぶれていない。
「どうも。まあ、『かわいい』は言われ慣れてるけど」
　あたし『かわいい』よりセクシーがいいなぁー、などと言ってじゅんはさゆるを笑わせ、同棲中の部屋を後にした。
　寝子島神社に出かけた。
　目的は、九鬼姫の回復祈願だ。

　鳥居をくぐる。石畳はきれいに掃き清められており、濡れた玉砂利が光沢を放っていた。
「あたしは神も仏も信じないよ、基本はね。前言ったように、宗教にはいい思い出がないんでね」
　でも、とじゅんは言って賽銭箱に小銭を投げ入れたのである。
「それでも、すがってみたくなることもあるじゃない？　もう祈ることくらいしかできないから」
「わかるよ、その気持ち」
　天気が安定しないせいか神社は空いている。ほぼ無人だ。
　さゆるも賽銭箱に小銭を入れた。
「さゆるは入れなくてもいいのに」
「九鬼姫さんの回復は祈るよ。それともうひとつ、願いごとがあるから」
「うん。そうだね」
　何を祈るのかじゅんは訊かなかった。
　きっとあたしと、おなじ気持ちだからだ。
　手を合せる。
　九鬼姫の回復を祈った。
　それと同時にさゆるは願った。
　あたしたちの再生を――。