【終業式】課題をクリアして冬休みを死守せよ！｜リアクション

【終業式】課題をクリアして冬休みを死守せよ！

　ホームルームが終わると水上桜は誰よりも早くに教室を出た。
　歩く早さで前髪は乱れ、前傾姿勢となって理事長室に向かう。
　――夏休みの終業式を忘れたとは言わせない。相手は理事長と思って手加減したのが裏目に出たわ。
　怒りで拳を握る。更にピッチを上げた。その勢いに前方を歩いていた生徒達は慄き、自ら端に寄った。
　――今回のことでよくわかったわ。あの理事長には厳しく言わないと堪えない。理解できないなら容赦ない言葉で追い詰めて、逃げ道を完全に塞いでやるわ。
　理事長室の扉が見えた。悪鬼の笑みが浮かぶ。
　足を止めた桜は穏やかな表情でノックをする。一度、歯軋りする音が聞こえた。
「どうぞ～」
　呑気な声に桜は、シメる、と笑って呟いた。
「失礼します」
「おや、君は桜ちゃんだね」
「夏の終業式に続いて私がきました」
　棘のある言葉に理事長の野々ととおはギクッとした。イスに座ったまま天井に目をやる。
「あれ？　優秀な秘書は」
「夢は寝て見てください。私の用件はわかると思いますが、敢えてはっきりと言います」
「もしかして冬休み廃止の話かい？」
　ととおは揉み手をしそうな笑みを見せる。
「その通りです。夏休み廃止の時にも言いました。忘れたのですか」
「覚えているよ。でも、今回は冬休みで夏休みではないよ」
「内容が同じです。いいですか。生徒達は休みに入る前に予定を立てています。ホテルの予約を取っている可能性もあります。海外旅行にいく生徒もいます。それを理事長の気紛れのような発言で廃止されれば、どうなると思うのですか」
「残念に思うかもしれないね」
　ととおは同調するように何度も頷いた。
　桜は目を細めた。滑るように歩いて両方の掌を机に叩きつけた。その迫力にととおは仰け反った。
「それだけではありません。キャンセル料が発生して生徒に損害を与えることもあり得ます。これは実害以外のなにものでもありません」
「そ、そうなのかい？」
「そうです。生徒に喜ばれないどころか実害まで与える。そのような理事長がどこにいるというのですか」
　ととおは目を白黒させて自身を指さした。
「いることが信じられません。今すぐ改心してください」
「そう言われても。僕も理事長として生徒達のことを想ってしているのだよ」
「その判断がおかしいと私は言っているのです。理事長の娘、ののこさんの言動を見ればわかると思います」
「え、ののこ！？」
　理事長の声が上ずる。明らかに動揺していた。
　桜は前のめりになって言い募る。
「実の娘に避けられている、いえ、嫌われている理由は、はっきりしています」
「そ、そうなのかい？」
　懇願するような目でととおは言った。
　桜は力強く頷く。
「思い付きだけで行動する理事長の身勝手さに愛想を尽かしているのです。それは傲慢と映り、今回も生徒達の怒りを買いました。その中にはののこさんの友達も含まれています。どれだけ胸を痛めたと思うのですか」
「そ、それはすまなかった……」
「言葉だけの反省は必要ありません。今後は行動で示してください。大切なののこさんを傷つけないように父親らしい態度を切に望みます」
　桜は背筋を伸ばし、にこやかに笑う。
　ととおは頭を下げた状態で口にした。
「そうだね。その通りだよ。僕はののこにとって、良い父親になるよ」
「その気持ちを忘れなければ生徒達にも理解されるようになります。私の用件は終わりました。これで失礼します」
　桜は踵を返し、理事長室を出ていった。
　扉を閉めた瞬間、無言で笑顔を爆発させた。スキップをしながら教室へカバンを取りに戻るのだった。

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