【終業式】課題をクリアして冬休みを死守せよ！｜リアクション

【終業式】課題をクリアして冬休みを死守せよ！

　終業式を終えた生徒達は速やかに三年四組の教室に戻ってきた。間もなくして担任の桐島義弘が現れ、ホームルームが始まった。
　朝鳥さゆるは頬杖を突いて窓を見やる。横切るカラスをぼんやりした目で追った。
　冬休みの注意事項が終わると通知表の受け渡しが始まる。早々と名前を呼ばれたさゆるは気だるげに立ち上がった。
「出席日数がギリギリだ」
「そう」
　気のない返事で通知表を受け取った。歩きながら片手で開くと５の数字が並ぶ。無表情は変わらず、自分の席に着くとカバンの中に押し込んだ。

　ホームルームの終わりは能力向上テストの始まりでもある。黒板に貼り出された紙に生徒達が怒ったような表情で集まった。
　さゆるは一瞥もしない。カバンを手に提げて扉へ向かう。
　――冬休みがどうなろうと、あたしには関係ないわ。どうせ休むのだから。
　冷ややかな目で教室を後にした。

　さゆるはシーサイドタウンの道をゆく。手前の歩道の一部が濡れていた。避けようとした時、手に提げたカバンに目が留まる。
　――通知表に興味はないけれど、じゅんが見たいと言った。今まで見せる相手がいなかったから新鮮な気持ちになるわ。
　心の中とは言え、饒舌になっていたことに気づく。ほんの少し表情が和らいですぐに無表情となった。
　姫木じゅんのマンションに着いた。扉を前にしてさゆるはスマートフォンを取り出す。
　――思ったよりも時間が掛かったわ。じゅんは今頃、キャバクラ『プロムナード』で接待中かもね。
　ドアノブを掴むと鍵が掛かっていなかった。
　さゆるは意外そうな顔で中へ入る。玄関の靴を見ると一足で不穏な感じはしなかった。
　用心に越したことはない。足音を忍ばせて奥へと向かう。
　衣擦れのような音が聞こえる。部屋の前で立ち止まると、さゆるは思い切って踏み込んだ。
「おかえり、っていうか、帰ってきた音がしなかったんだけど」
「ごめんなさい」
　素直に謝るさゆるに姫木じゅんは笑ってツインテールのリボンを結んだ。黒いゴシックロリータ風のドレスが童顔と相まって愛らしい魅力を醸し出す。
　さゆるはソファーにカバンを置くとじゅんの背後に立った。相手の細い腰に両手を回して、ただいま、と安堵した表情で言った。
「それで通知表なんだけど、どうだった？」
「そんなに気になる？」
「ならないって言ったらウソだし、知りたいって想う気持ちは恋人として当然よね？」
　じゅんは顔を横に向けた。顎を上げてさゆるを見つめる。二人の視線はお互いの唇に注がれた。吸い寄せられる前にさゆるは離れた。
　ソファのカバンを開けて通知表を取り出す。
「面白いものではないよ」
「いいから」
　ひったくるようにして奪うと、じゅんはわくわくした表情で通知表を開いた。
　整然と並ぶ５に目を丸くした。
「オール５の通知表なんて初めて見た……」
「大した事はないわ」
「これも初めてかも」
　じゅんは通信欄に書かれた内容を指で示す。
『テストの点数は申し分ないのですが、出席日数に些か問題があります。規則正しい生活習慣を心掛けてください』
「注意はされたけれど、問題はなかったわ」
「ギリギリなんだよね？」
「それは否定しないわ」
　さゆるは目を伏せた。小言を受け入れるつもりで口を閉ざす。
　正面に立ったじゅんはさゆるの首に腕を回す。引き寄せて頭を胸に抱き、優しく後頭部を撫でた。
「オール５を取ったのよ。もう少し自分を褒めてあげてもいいんじゃない？」
「あたしは」
「よくがんばったね。さゆるはあたしの自慢の恋人だよ」
「……うん、ありがとう」
　さゆるはじゅんの温かい胸に抱かれ、安らかな眠りに落ちるように目を閉じた。

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