愛の実は心になる｜リアクション

愛の実は心になる

　三夜湖まで戻ると、全員が肩で息をしながらその場に膝をつく。
「どうなってんだよ！　あれはなんなんだよ！」
　興奮状態のコウが一気にまくし立てる。
　ところがすぐにみんなの視線は三夜湖へと向けられた。
　湖の水がまるで生き物のように地上へ這い上がってくる。
「嘘だろ……？」
　三夜湖の中から抜け出た水の塊は、再び木下愛美を象った水の体へと変化した。
「我はシンム。さぁ悩みを言え……絶望を聞かせろ……」
　シンムと名乗るそれは右手を掲げながら近づいてくる。
「お前達の心を救ってやろう……」
　男と女の声が混ざった、それでいて地面から響いてくるような深い声。
「そうか……神隠しはこいつの仕業だったんだ。だから決まった場所で誰にでも見えるってわけじゃなかったんだ」
　呆然と双葉が呟く。
「感心している場合か！　どうするんだよこの状況！」
「このままじゃ私達もあの化け物に喰われちゃうのだ！」
　慌てふためく八十八旗と後木。
「下がってろ！」
　その二人を押しのけて飛び出した御剣が木刀でシンムに斬りかかるが、
「中には愛美ちゃんがいるんだよ！」
　桜庭の叫び声を聞いて咄嗟に自ら態勢を崩して受け身をとる。
「それじゃ下手に手出しもできないじゃんかぁ！」
　八十八旗の絶望の声と後ずさりするメンバー達。

「こうなったらとことん再現してやろうじゃないか」
　八神が不敵な笑みを浮かべながら。
「再現？」
「忘れたか？　元々シンムは何のために存在していたか」
「願いを叶える泉？」
「誰かがシンムに望みを言うんだよ。もしかすると本来の自分を思い出すかもしれない」
「可能性はあるな。というよりも、この状況ではもはやそれしか手はないと思うが」
　八神の意見に双葉も同意する。
　他の面々も少し考えたが、
「我沢。俺達がシンムの隙を作る。その瞬間を逃すな」
　御剣が言うもコウは言葉が出ない。
　その肩に民谷の手が添えられる。
「木下を救いたいんだろ？　他に誰がやる」
「……わかった」

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