愛の実は心になる｜リアクション

愛の実は心になる

　探索開始から一時間。
　泉は発見できず、探索班は三夜湖へと引き返した。
「わかってはいたけど簡単には見つからないものだね……」
　桜庭が近くの木に寄りかかって大きく息をついた。
　他の面々も慣れない山道に疲れたのか、それぞれが適当な場所へと座り込む。
　だが、コウだけは相変わらず落ち着かない。
「お前も少し休め」
　そんなコウを案じた八神がノートを見ながら声をかける。
「何か手がかりになるようなことでも書いてないか？」
　八神に近寄ってノートを覗きこむコウ。
「ちょっといいか」
　そこへ双葉がやって来て、八神からノートを取るとページをめくっていく。
「ここを見てくれ」
　彼女が指差した部分には、小さく何か書かれている。
「願いを叶える泉を見つけるにはその姿を誰にも見られてはならない」
　八神が読み上げた内容に一同は顔を見合わせた。
「願いを叶えるって……それが神隠しの泉？」
「姿を見られてはならないって丑の刻参りじゃあるまいし」
　じっとそれを見ていた八神が顔を上げる。
「もしこれが言い伝えだとすれば泉を見る資格が俺達にはなかったことになるな」
「一人で探せってことだよね？　でも何かあった時どうするの？」
　桜庭の疑問に、民谷が得意気な笑みを浮かべてロープの束を見せた。
「問題は誰が犠牲になるかなのだ」
　後木の身も蓋もない言い方に皆が黙り込む。
「俺にやらせてくれ」
　名乗りをあげたのはコウだった。

　コウは自分の腰にロープを巻きつけて外れないように確認した。
「泉を見つけたらロープを思いっきり引っ張れ」
「お、おう」
　民谷の言葉に緊張した面持ちのコウが答える。
「思ったより勇気あるじゃん……て、震えてるけど大丈夫かぁ？」
　八十八旗がいつもの調子で話しかける。
「大丈夫。今度こそ絶対にあいつを見つける」
　コウは震える声で言うと尾鎌を一瞥した。
　それに気付いた尾鎌が口元を緩めると、コウもぎこちない笑顔を作ってみせた。
「じゃあ行って来る」
　緊張の面持ちでコウは暗闇の中へと姿を消した。
　残ったメンバーもそれぞれが明かりを消して息を潜める。
　ロープを握る民谷の周囲に集まって……。
「暗いのだぁ……」
　怯えた様子で周囲を見渡しながら後木が漏らす。
「明かりつけちゃ目立つだろう。てか、裾を引っ張るな。伸びる」
　全員が民谷の握るロープに神経を集中させる。
　ロープはゆっくりと山の奥へと伸びていっていた。

「ふぁ～……ねむ」
　八十八旗が眠そうに呟く。
　コウが山奥へ消えてどれくらいの時間が経っただろうか。
　ロープが限界まで伸び切りそうになるたびに、民谷が予備のロープを繋ぎ合わせてもたせてきたが、ここにきてその予備も底を突く。
「そろそろ我沢を呼び戻した方がいい」
　民谷がロープを引っ張って合図を送ろうとしたその時、
「うお！」
　手に握っていたロープに引っ張られて倒れそうになっていた。
「こ、これはっ？」
「いくぞ！」
　全員が一斉に真っ暗な山道をロープを頼りに駆ける。